君が袖振る
そしてさらに、最近龍介は思うのだった。
那美子は確かに、温(ぬる)い情ではなく、一途な愛を求めているのだと。
きっと袖を振る程度じゃ満足できない。
とにかく龍介に、すべての邪魔を排除し、自分だけへの強い愛を抱いて欲しい。そのためには、龍介に纏わり付いている過去の女の淡い恋心を、自らばっさりと切り捨てて欲しい。
だから、毅然としてそれに訣別してもらうために、小説を投稿し、そこから変化してくる龍介の決断や行動を確認したいのではないだろうか。そのように思い至ったのだ。
龍介は昨年、那美子へプロポーズをした。
その返事は、「こんな私で良ければ、だけど一応お受けします」だった。
那美子はきっと、この「一応」、この言葉を取り外したいのだろう。
そうだ、紫野への最後の返事を書こう。龍介はそう思い立った。
そして次のようなメールを、いや、電子恋文を認(したた)めた。
作家・紫野さんへ
僕はもうあなたへ
そう、綾子 こと 綾乃へ、袖を振ることを致しません。
これからは、婚約者の那美子だけに袖を振ります。
そして、一途に
那美子だけを
一生の人と思い
愛し続けて行きます。
龍太 こと 龍介より