君が袖振る
このメールに直ぐさま返信があった。
龍介はそれを読み、思考が振り出しに戻ってしまう。
作家・紫野は一体誰?
那美子?
いや瑤子?
それとも拓史かも?
うーん、ひょっとすれば、あり得ないことだが・・・・・・
綾乃だったりして?
紫野は一体誰なのだろうか?
龍介はわからなくなった。
それほどまでに龍介を混乱に陥らせた紫野からの返信、そこには次のように書かれてあったのだ。
龍介君へ
那美子さんへの、龍介君の熱い想い、よくわかりました。
だから、ここでは「一応」を外して、お受けしておきますわ。
だけど、龍介君、
小説「君が袖振る」をもう一度読み直してみて頂戴。
万葉の碑の前での二人の会話があるでしょ。
龍太: 「ペンネームは、どうするの?」
綾子: 「ペンネームはね・・・・・・私決めたわ、紫野よ、龍太君もこの名前好きでしょ」
小説の中では、龍太と綾子の会話はこうなってたでしょ。
だけど龍介君、もう一度ようく思い出してみて。
本当は、そうじゃなかったよね。
龍介: 「ペンネームは、どうするの?」
綾乃: 「ペンネームはね・・・・・・そうね、龍介君は何が良いと思う?」
龍介: 「そうだなあ・・・・・・紫野はどうかな、綾乃によく似合ってるよ」
綾乃: 「じゃあ、龍介君の好きな紫野にするわ」
紫野というペンネームは、龍介君がその歌を見て付けてくれたのよ。
この本当のいきさつを知っているのは、龍介君と私だけなの。
わかったでしょ。
小説「君が袖振る」は、そうなの、私、綾乃が執筆し、このメールは私が書いていることが証明されたでしょ。
私はこのネット内で生きてるの。
だから、もっと私に袖を振って頂戴。
たとえ那美子さんを通してでもね。
おわり