君が袖振る
なぜ、那美子が?
龍介にはわからない。
そんな親友の様子を見ていた拓史が、もう見てられないという風な顔をして見つめてくる。
「龍介、俺も一杯経験してきたものだから、俺の意見だけど、一つだけ教えてやるよ。龍介も俺と一緒で、いっつも情に絆(ほだ)されて、袖を振ってんだよ、しかも誰にでもな・・・・・・女は恐ろしいもので、そんなもの全部見抜いてるんだよ」
龍介は突然拓史からこんなことを指摘されたが、「そうか」としか答えようがない。
だが、同窓会の夜、瑤子が最後に言い捨てた言葉、「情と愛とは違うのよ」、それが思い出されてくる。
さらに拓史は、兄貴のような言い草で続けるのだ。
「多分、那美子さんが求めているのは、きっとお前の優しい情なんかじゃなくって、強い愛なんだよ。その愛を結婚するまでに確かめておきたいんだよ。つまり、愛はどんなことがあろうが、どんな場面であろうが、一途・・・・・・そう、いつも一途でないとダメなんだよ」
龍介はこんな拓史の熱弁に押されて、「なるほどなあ、情ではなく強い愛か。そして一途ねえ」となんとなくわかるような気がする。
そんな考えを巡らせている龍介に、拓史は「お前の強くて、一途な愛に乾杯!」と叫び、自分のビールのグラスをカチンと勝手に龍介のグラスに合わせた。
龍介はそれにつられて、「ああ、乾杯」と吐き、一気に飲み干した。
こんな拓史との再会、龍介にとって、それはそれなりに意味あるものだった。また楽しいものだったとも言える。
そしてそれを終えて、龍介は地方にある事業所の仕事へと戻った。
毎日が忙しい。
だが、なぜ那美子は綾乃になりすまして小説を投稿したのだろうか、その答をずっと探し求めている。
一度は那美子に直接聞いてみようかとも思ったが、もし聞けば、それはやぶ蛇になる可能性がある。つまり、今までの作者・紫野とのメールのやり取りからして、綾乃への淡い想いがあることを認めてしまうことになるのだ。
そのようにならないためにも、龍介は何とか自分自身で答を見付けたい。