君が袖振る
しかし、ここは気を落ち着かせ、「那美子は何のために、拓史の所へ行ったんだよ?」と聞き返した。
拓史の方は、今さら何を言ってるんだというような顔をして、そして一言。
「素行調査だよ」
龍介はそれを聞いて、ムカッときた。
「素行調査? 何だよ、それ。俺はまじめに那美子と付き合ってきたんぜ」
こんな龍介の反応に拓史は少し言い過ぎたかなと反省し、「すまんすまん、素行調査じゃなくって、那美子さんは高校時代まで遡り、龍介の過去を全部知っておきたかったんだろうなあ」と言い換えてきた。
龍介はこれに直ぐに反応し、「で、拓史、那美子に、俺の何を教えたんだよ?」と突っ込む。拓史はこんな龍介の追求に、まずは一言、「申し訳ない」と謝った。
その後、信じられないkとを話すのだ。
「龍介の婚約者だろ、そりゃあ大事だし、親切にしなきゃなあ。だけど俺達の高校時代って、割にいろんなことがあったものだから、簡単には語り尽くせないだろうが。それで、実は・・・・・・ウチのヤツが、綾乃から預かっていた日記を、しばらく貸し出してしまったんだよなあ」
他人の日記を人に見せるなんて、巫山戯た話しだ。
しかし、たとえそんなことが現実にあったとしても、龍介はその他にまったく解せないのだ。
綾乃の日記、それは瑤子の手元にあるはず。
「拓史、なんで綾乃の日記がお前のカミさんの手にあるんだよ?」
とにかく龍介はそう尋ねた。すると拓史はさらりと返してきた。
「龍介、知らなかったのか、この間までだけど、俺の女房は瑤子だったんだぜ」
これを耳にした龍介、口に含んでいたビールを、思わず「ぶっ」と吹き出してしまった。
知らないと言うことは、とにかく罪なことだ。
龍介はその瞬間にそう思った。
たとえ、それは成り行きだった。いや、なにか大きな力で導かれてしまった。
そう言ってみたとしても、同窓会で、親友の妻の唇を・・・・・・。
冬の青白い月光の下、熱く抱擁し、奪ってしまったのだ。