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君が袖振る

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 その瑤子の指先から、女の熱い脈動が伝わってくる。

「龍介君、もっと一杯袖を振って頂戴、もっともっと面白くなるかもよ」
 瑤子の背後で、今、綾乃がそんなことを口にしたような気もする。

 そして、龍介はまるで電撃に打たれたかのように、そう、高校二年生のあの時、いきなり綾乃を後ろから抱き締めた時のように。龍介は瑤子の胸の膨らみごと、冬の肌寒い月の光の下で思い切り抱き締めた。

 そして、冷えた自分の頬を瑤子の頬にすり寄せた。

 遠くの方から相変わらず賑わいのざわめきが聞こえてくる。だが、そんなことにはもう興味がない。

 とにかくごくごく自然に。
 自分の唇を、瑤子の唇に重ね合わせていった。

「冷たいなあ」
 龍介は瑤子の唇が異常に冷えていることに驚いた。

 そんな唇を、龍介は自分の唇で暫く暖めてやる。
 瑤子には、それを特に拒んでいる様子はない。時々薄く見開く瑤子の目は、むしろとろけるような心地よさで濡れている。

 確かあの時の綾乃もそうだった。
 綾乃は拒むこともなく、龍介の為すがままにさせてくれた。

 そして、今回の瑤子も同様だ。いやむしろ、もっとせがむように龍介の唇を受け止めている。

 龍介はもうどうでも良くなった。
 瑤子も、同じ官能という魔物に襲われてしまったかのようでもある。瑤子は、もう辛抱ができなくなったようだ。

 自分の獲った獲物を貪るかのように、その女の舌を深く絡ませてくる。
 龍介は、そんな狂う瑤子をがっちりと受け止めた。そして、それにしっかりと応える。

 その結果、二人は・・・・・・。
 この冷え冷えとした冬の夜空の下で、それはそれは熱情の熱いキスを交わしてしまったのだ。


作品名:君が袖振る 作家名:鮎風 遊