君が袖振る
しかし、綾子はそれは口にせず、まったく違うことを話してしまう。
「ねえ、龍太君・・・・・・子供さん、いるの?」
龍太はまだ結婚をしていない。だから子供なんているわけがない。
しかし高校時代と同様、こういう話しにはいつも歯切れが悪い。
「うん、まあなあ、奥さんいないしなあ」
それを聞いた綾子は、まるで勝ち誇ったように言い切るのだった。
「私、子供できたわよ、どうお」
龍太はそれに対し、「ふーん、良かったね」と軽く返すだけだった。
二人がそんな素直になれない会話をしている所へ、葉子が突然割って入ってきた。
「龍太君、あなた、いつまで経ってもわかってないのね、綾子はあなたのことをずっと待ってたのよ」
綾子にとって、それは当たっていたかも知れない。しかし、二人は決して結ばれない運命だったのだとも思っている。
「葉子違うわよ、白状するわ。龍太君のこと、好きだったことはあったけど、赤い糸は結ばれず、お互いに、そこまでだったのだわ」
綾子は葉子の言葉を必死に打ち消している。そして、龍太がそんな綾子の言葉に便乗するかのように答えてくる。
「ああ、それもこれも時の流れの中で、遠くの方へ消えて行ってしまったんだよなあ」
こんな三人のやりきれない会話。しかし、それとは関係なく、同窓会は異常なほどに盛り上がった。
そして時は進み、もう締めの時間が迫ってきている。
そんな時に、柱の陰でその身を隠し、そっと涙を流している女性がいた。
それは葉子。
先ほどまで一緒に談笑していた葉子が、誰にも気付かれないように泣いている。