君が袖振る
時はさらに流れた。そして、龍太が会社勤務をし始めてから一年が経過した。
その頃に、綾子は新しい恋人と婚約をした。
その時に、綾子の脳裏に過ぎったこと、それは高校時代に龍太からもらった一通の恋文。そこに書かれてあった文言。
「君のことを、一生の人と思っています」
高校生の綾子にとって、それはあまりにも重過ぎた。そして、いつまで待っても、龍太は結局現れ出てこなかった。
だが、そうかと言って、今さら突然に顔を出されても困ってしまう。
現在は、結婚する彼氏とともに、強い絆で結ばれた家族を築いていきたい。
こうして綾子は、考えに考えた末に決心した。
七年の歳月を経て、龍太からもらった恋文に返事しようと。それも簡潔明瞭に。
一方龍太は、その頃勤め先の独身寮に入っていた。日々の仕事に追われ、忙しい毎日を送っていた。
そんなある日に、綾子は次のような文言で、一枚のはがきを龍太に送る。
龍太 様
私、結婚します。
君待つと 我が恋ひ居れば 我が宿の 簾(すだれ)動かし 秋の風吹く
かしこ
綾子