君が袖振る
綾子は、こんな恋文を受け取って驚いた。しかし一方で、なんで今さらとも正直思った。
「龍太こそ、葉子の方が好きなんでしょ」
綾子はそう呟いてみたものの、龍太の本当の気持ちがわからない。
しかし龍太のことが、今でも好き。
そのせいか、綾子はそんな龍太からの恋文が捨てられず、毎日綴っている日記のページの間に、そっと挟み込んだのだった。
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龍介はパソコンの画面にかぶりつき、ここまで一気に読み進んだ。
「ああ、その通りだったよなあ、確かにあの時、必死で辛い恋文を書き、綾乃に送ったよなあ・・・・・・その時に伝えた一生の人、そんな気持ちが懐かしいものだ。今は婚約者の那美子、彼女が一生の人かな、だけど、俺の恋文が日記に挟み込まれてあるって、これって、ちょっとヤバイよなあ」
龍介にちょっと後悔の念が生じてくる。しかし、当時綾乃のことが好きで好きでたまらなかった。
綾乃を『一生の人』と思ったのは事実だった。
その一方で、大学受験の事をそろそろ考えなければならなかった。そして、この恋は当面お預けにするかと、そんな打算的なことを考えてしまっていたのも事実だった。
今から思えば未熟、されど熱い恋心。それを恋文に託し、綾乃に告白した。
しかしそれと同時に、なぜかそれが一つの心の踏ん切りとなり、その恋ののぼせも冷めていった。
だがそれは、綾乃が嫌いになったということではなかった。