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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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大切な人 後編

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「誰がお嬢さん育ちなの?お姉さんだってそうなるんじゃないの?」
「末っ子のあなたは甘やかされて育っているじゃない。母だっていつも靖子のこと口にしていたし。それが口惜しかったって
言うわけじゃないよ。でもあなたは何の苦労もしないで育って結婚したから幸せだって思えるのよ。違う?」
「幸せって何?お金に不自由しないこと?子供に恵まれること?家を持つこと?専業主婦で生活出来ること?」
「みんなそうよ。あなたにはすべて揃っているじゃない。少しぐらい亭主関白でもあなたは幸せなほうよ。何か気に入らないことでもあるの?」
「別に・・・」

姉とはいつも話していると喧嘩になってくる。長女としての宿命なのだろうか・・・おせっかい妬きなのだ。

「もう帰りましょうか?今日はしばらく家にこもっていたから、買い物しなくちゃいけないの」
「あら、そう。じゃあそうしましょう」

姉を家まで送り、いつも買い物をしているスーパーに立ち寄った。
携帯が鳴った。着信を見ると娘の美幸から電話だった。
「どうしたの?」
「今ね自宅に庄司さんから電話が掛かってきたからお母さんの携帯番号知らせておいたよ。掛かってくるかも知れないから連絡したの」
「庄司さんから!・・・そうなの、ありがとう」
「じゃあ切るね。今どこ?」
「いつものスーパーよ」
「解った」

電話を切って雄介から着信があるかも知れないとずっと手に携帯を握り締めながら買い物をしていた。
レジを通って買い物袋に入れて車に乗り込むまで着信音は鳴らなかった。
駐車場から車を出すことをためらっていた。運転すると電話に出れなくなってしまうからだ。しばらく運転席に座ったまま携帯をじっと見ていた。
30分ほど経ったころ、着信音が響いた。開けると「雄介」と名前が出ていた。

「はい!靖子です・・・」
「携帯持ったんだね。連絡しておこうと思って自宅へ掛けたんだよ。居ると思っていたから悪いことをしたかな?」
「いいえ、娘には話してありますから大丈夫です。それより身体はどうなの?」
「一通りの検査は済んだよ。来週ぐらいから本格的に治療が始まる。もう電話が出来ないと思って・・・声が聞きたかったんだ」
「そんな言い方、イヤ!なんだかもう逢えなくなる様に聞こえるじゃない」
「そうなるかも知れないから」
「イヤだって言ってるでしょ!イヤだって・・・約束したじゃない!私を迎えに来てくれるって・・・大丈夫よ、先生を信頼して頑張って
欲しい。私祈っているから、早く良くなるように」
「ありがとう。靖子の声が聞けたから、頑張れるよ。絶対に負けないから、約束するよ元気になるって。待っててくれよな。
寂しくなって浮気なんかしちゃダメだからね」
「バカ!何言ってるのよ。そんなことするわけないじゃないの。一番好きなこと知っているくせに」
「そうだったよな・・・長いぞ退院まで。我慢できるのか?」
「男と女は違うのよ。あなたと同じに思わないで」
「何だそれ?ボクは我慢出来ないって聞こえるぞ」
「いいの、そんなこと。今は身体を治す事だけ考えて・・・待っていることは辛いけど、大丈夫だから」
「うん、じゃあな。電話切るぞ」
「掛けてくれてありがとう。頑張って・・・」

携帯の蓋を閉じてそっと胸にあてがった。大好きなあの人はこの携帯の向こうに居る、そう強く感じられた。
家に帰ると娘が「電話掛かってきた?」そう聞いてきた。「掛かってきたよ」とだけ答えて、買い物したものを冷蔵庫にしまっていた。
「お母さん・・・心配しているんじゃないの?大丈夫?」
「美幸、心配しないで。大丈夫だから。ありがとう」
「ならいいけど。ご飯手伝うよ」
「そう、助かるわ」

料理をしている手が時々止まる。ふと考えてしまうのだ。本当に逢えなくなってしまうんじゃないかと最悪のシナリオを描いてしまう。
雄介の病気を詳しくは聞かされていない。ガンとだけ言われてショックを受けた。それは死ぬことを想像させる病名だからだ。
自分には何も出来ないからどんなに考えてもどうすることも出来ないことだと、そう思うと心が萎える。そしてきっと奥様は傍に居て
雄介さんを介護しながら励まし、一緒に病気と闘っているんだろうと想像すると、嫉妬を通り越して自分の無力感と存在の小さいことに
気付かされてしまう。好きなことだけは絶対に誰にも負けないけど、こんなときには妻の大きさを見せ付けられてしまうのだ。

夫が帰ってきて三人で食事をしていた。普段から余り靖子に関心を示さない俊一ではあったが、元気の無い毎日が続いていたのでさすがに
気になったのか話しかけてきた。
「靖子、どうしたこのごろ元気が無いように感じるぞ。どこか具合でも悪いんじゃないのか?」
「えっ?私のこと気にしてくださるの?珍しいわね・・・でもありがとう。心配なさらないで、何も無いですから」
「一度大きな病院で診てもらったらどうだ?健康診断なんてやってなかっただろう。いい機会だぞ」
「そうね・・・人間ドックにでも入ろうかしら」
「そうしなさい。一日ぐらい家のことやらなくても構わないから」
「もしガンとかが見つかったら、あなたどうされます?」
「ガン?そんな心配があるのか?」
「もしもの話ですよ。検診で引っかかった話はよく聞きますからね」
「そうだな・・・仕事辞めて看病するよ。大変らしいからな」
「まあ、嬉しいことを言ってくれるのね。大変ってどういう事?ご存知なの」
「詳しくは知らないよ。取引先で健康診断受けたら再検査を言われて、ガンが見つかった人が居るんだよ。俺より少し上ぐらいの
男性で、確か・・・肺ガンだったと思うな」
「肺ガン・・・タバコがいけなかったのかしら」
「そうとも限らないよ。ヘビースモーカーでも罹らない人は罹らない。運というか遺伝というか原因は究明されてないからね。
その人は放射線治療と化学療法といってね抗がん剤を使って中から細胞をやっつける治療をしていたんだよ。聞くところによるとね
この抗がん剤の副作用で毛は抜けるし、吐き気や下痢を催すし、めまいや頭痛も起こるらしい。食事もなかなか思うように採れなくなって
しまうから体力が落ちてくる。点滴で栄養剤を投与されるんだけど口から食べてないと元気は出ないからげっそり痩せてしまったらしいよ。
そこへもってきて放射線を浴びるだろう、炎症が起こってとても痛かったそうだよ。まあ、それで助かったらいいんだけど治療の
甲斐も無く死んでしまったから、とても可哀そうだったって聞いたよ」

靖子は夫の話を最後まで聞いていられなかった。

「どうした?気になることでも話したか?」
「いいえ、ゴメンなさい・・・あなたのお話がとてもショックだったので」
「そうだろうな。俺も聞いたときは自分がそうなったらどうしようってショックを受けたからな。お前に迷惑を掛けてしまうし、あげくのはて
苦しんで死んで行くぐらいなら治療せずにその時を迎えたいって考えるよ」
「苦しんで結局は死ぬの?治ることだってあるのでしょう?」
「もちろんだよ。俺が聞いた話は最悪のパターンだよ。半数以上は治療して治るらしいからね」
「良かった・・・」
「何が良かったと思うんだ?」
作品名:大切な人 後編 作家名:てっしゅう