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音楽レビュー

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NICO Touches the Walls『runova×handover』


 NICOは、あらゆる領域について、そこと距離をとりながら同時にそこを満たす。例えば人間に対して、NICOは愛から憎しみに至るまでのすべての領域を執拗に貫き満たしながら、それでもなお人間と距離をとる。これは、彼らの執拗な邪悪さから当然に帰結されることである。彼らはその悪の強さゆえにどんな領域に対しても耐性を持っている。だからどんな領域をも支配的に満たすことができるのだ。一方彼らはどんな領域についても、それに違反するのだ。違反こそが悪の本質であり、そして彼らの存在理由でもある。
 彼らの分析的な曲作りは、それゆえ音楽というものを支配する者の嘲笑のようなものである。音楽という領域がけしかける様々なトラップ、それに彼らは動じない。むしろそれらのトラップを逆手にとり、音楽自体を罠にかけ、音楽自体を嘲笑するのだ。音楽を支配すると同時に、音楽に違反する。彼らの悪は彼らの自己意識であり、それゆえ反省されることがない。悪は反省の主体であっても反省の客体にはならない。だから彼らの悪は始まりもなく終わりもない。批判されることがないからだ。
 彼らの曲には目的がない。いわば目的は既に達成されている。悪というものは、目的志向的な生産の原理に真っ向から反するものである。だが彼らは破壊もしない。破壊しなくても支配することで彼らの攻撃欲は既に満たされているからだ。支配する悪の気まぐれな嘲笑、それが彼らの音楽である。

作品名:音楽レビュー 作家名:Beamte