音楽レビュー
THE NOVEMBERS『Fourth Wall』
THE NOVEMBERSはこれまで悪意や懐疑などをひずんだ旋律で執拗に歌ってきたバンドである。だが、このアルバムに至って、彼らは更なる変化を見せている。まず、それまでの悪意や懐疑の徹底であり、つまりは悪意に対する悪意、懐疑に対する懐疑を作り始めるのである。サウンドはより重厚でねじれたものとなり、悪意や懐疑に何かしらの特権性や自負を付与してしまっていた自分たち、もしくは自分たちと同様のものたちへ、そんな悪意や懐疑も別に大したもんじゃないし移ろいゆくものに過ぎないんだ、とさらなる相対化を投げかけるのである。
だがそれだけではない。注目すべきはアルバムの末尾に置かれた"Dream of Venus","childeren"の二曲である。ここにおいて、彼らはいわばそれまでの懐疑の連鎖、悪意の連鎖からふと浮かび上がるのである。重低音は姿を消し、曲は静けさを増し、淡々と風景や生活が歌われる。人間存在に対する意地の悪さを継続していくことの不毛さを悟ったかのように、突如静かな風景や生活が現れる。ここにいたって、彼らの音楽は一つの終局点に達したかのように思われるし、このような位相でしか見えてこないごく当たり前の事実はいくらでもあるだろう。歪みやねじれを追求し、それを特権化し、はたまた次にはそれを相対化したあと、最後にふと浮かんできたのは、全く何の態度も何の意志もないごくありふれた無色の風景と生活だったのである。悩みもなく絶望もなく衝動もなく、ただ自然にあるものへの自然な視線へと超越するということ、そこに彼らの一つの終りがあるのではないだろうか。