音楽レビュー
METALLICA『DEATH MAGNETIC』
METALLICAの曲を聴いていると、健全でないストイシズムの響きを感じる。健全なストイシズムは自分を愛する事から出発する。その愛する自分をより愛すべきものとして高めるために、ストイシズムは機能するのだ。ところが、彼らは人間がそのようにして築いていく自己愛のシステムをそっくり無効化しようとしているように思われる。人間は自分を愛し、自分の見るものを愛し、自分と関係するものを愛し、そのように、自己愛を中心として愛のシステムを周辺に広げていくものである。これは思想的にはイデオロギーの産出という形をとる。自分のやっていることは良いことだ、自分と関係するものは良いものだ。
だが、彼らは「BLIND YOUR EYES」とか「SELL YOUR SOUL TO ME」といった具合に、そのような自己愛システムの中心となる魂や、そのようなシステムを広げていく視野などを否定していくのである。自己愛システムはイデオロギー産出装置であるが、そのような自己正当化イデオロギーをことごとく無効化していくこと、そのことによって、自己を愛したいという究極の欲求を否定すること、それが彼らの健全でないストイシズムなのだ。「DEATH」とは物質的な死ではなく、イデオロギーの死、あるいはイデオロギー的真空を表すのであって、そのようにして自己愛イデオロギーを破壊しつくした後の、何も愛せないという地獄を作り出すということが、彼らのやろうとしていることなのだ。
自分を愛せない、それゆえ何者も愛せない、さらにあらゆるイデオロギーは無効、このような世界観はヘビーで荒れたサウンドによって十分表現されている。そのような地獄は人間の実存の様式を問うものであるし、そのような地獄で再び希望を見出すために人間に何が必要か、あるいはなぜそのような地獄へ落ちいらなければならないか、様々な問いが生まれる。人間が安穏と自分を愛し、自分を中心とした自己愛のシステムを作り出していることへ痛烈な否定をぶつけること、そこで人間存在を問い直すこと、割と彼らはラディカルなことをやっているわけだ。