音楽レビュー
perfect piano lesson『Wanderlust』
perfect piano lessonは根源へ遡行しない。彼らは存在理由などそもそも問題にしないし、自分が本当に自由かどうかなんてことも問題にしない。「実存」などという本来的な在り方に遡ろうとはせず、それよりもより上層の些末な沃野を開拓していくのである。彼らの歌詞を読むと、孤独であるとか生き方であるとか失敗であるとか割と生臭いことが書いてあるのだが、不思議と彼らの音楽にそれを乗せてしまうと、みな清潔になってしまうのである。この軽快で鋭い音楽によって、歌詞の意味内容が変化をこうむっているのか、それともそもそも歌詞自体が軽やかなのか、聴いているとわからなくなって来るが、そのようなわからなさ、理由の不明さ、そういう立ち位置で彼らは音楽を作っているはずである。
世界の構造やら人間の構造やら、確かに深部にはいろいろあるだろう。だが、個人の個別の行動や集団の常識などは、そういう深部にある構造から、そういう深部にある構造には還元出来ない形でもって創発されるのである。perfect piano lessonは深読みを拒絶する。現にいま行動している個別の孤独な事象どもを何ものにも還元しないという姿勢。そこに創発されてあるものたちは、限りなく光りに満ちていて、限りなく清潔で、限りなく普遍的だ。実存や根源に汚染されていない、人間の日常的で些細で豊かな空間がそこには繰り広げられているのだ。根拠や構造に対して中立であること、そしてそのような中立性が際限もなく豊かであるということ、彼らはきっとそのようなことを主張しているのではないだろうか。