音楽レビュー
HELLOWEEN『BETTER THAN RAW』
HELOWEENの世界観から感じるのは、何か魔の属性を帯びた古城や迷路のようなものに臨んだ時に感じる、悪寒や戦慄や不安や恐怖や混乱のようなものだ。人間がついぞ開拓できない、魔の領域、邪悪の領域、その在り方は、何かを媒介にしなければ、その媒介によるノイズによって変質されなければ伝わってこない。神秘系のヘヴィメタを聴いていて思うのは、彼らの扱っている神秘は、神秘そのものではなく、神秘が此岸に伝達されるプロセスで必然的に伴う誤解やノイズのようなものに宿る不確実性が積もり積もって新たな神秘になっているのではないかということだ。神秘そのものには人間は到達できない。だが、神秘から生み出される種々の表現には必ず神秘そのものではない媒体固有のノイズが混じり、そのノイズに神秘が分配されるのではないかということだ。
古城や迷路は、人間が作ったものに邪悪なものが少しずつ堆積して出来上がったものである。魔が少しずつ堆積していくプロセスを経て、人間と魔とが、決して溶け合わない混じり方をして出来上がったものだ。そこには、到達できないはずの魔が不確実性・ノイズに形を変えて我々の目に触れるようになり、我々はそれを目にすると言いようのない短絡的な反応をする。ヘヴィメタが重低音を重視するのは、それが人間によってとらえづらいものであるからだろう。さらに、HELOWEENはギターの即興的なソロを重視している。それもまた、音楽をとらえづらいものにしようとする試みのように思われる。そのように、とらえづらい魔は、その不確実性ゆえに、人間の意表を突くような部分と感応して、適切なプロセスを経ずに効果を及ぼす。聴く者は、音楽を聴いたとき、意味の解らない不安や恐怖を感じるかもしれないが、それは、彼らの扱っている魔が、それほどとらえづらい割にはインパクトがあり、それゆえ聴く者の様々な部分と短絡的に反応し合うからである。