小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

音楽レビュー

INDEX|41ページ/65ページ|

次のページ前のページ
 

Patti Smith『Horses』


 パティ・スミスのリリックは基本的に文学作品である。だから、単純に情報や感情を伝えるのではなく、様々な想像力や修辞によって作品世界を作り出しているのである。それゆえ、我々は彼女のリリックを単に「読む」のではなく、「味読」しなければならない。逆に言えば、彼女のリリックは「味読」に値するだけの豊かさを持っているのである。
 だが、彼女はそのリリックを単に書いただけではない。それを、様々な伴奏と表情と共に朗読し、あるいは言葉の抑揚に沿ったメロディーで歌うのである。我々は、彼女のリリックを「読む」だけでは済まされない。彼女の音楽において、我々は彼女の文学を「体験」するのである。文学を「読む」ものではなく、「体験」するものへと高めたこと、それがパティの素晴らしさである。
 彼女の曲を聴いていると、まず、音楽や彼女の声に「包まれている」と感じる。そして、我々を包んでいる環境は物語を持って展開していくのである。環境の物語を受容すること、それがまさに「体験」である。音楽と朗読を用いることで、文学を環境の物語として、体験されるものとして展開していくということ。彼女がやりたいことはそういうことだろうと思われる。
 ところで、文学を読むことに慣れた我々としては、文学が環境として襲ってくることに対して何か違和感を感じる。そこでは何かが損なわれているように感じるのだ。それは、我々が文学を黙読したときに得られるような静的な感慨である。文学作品と同化したような密着感である。彼女は文学に動きを付与し、また文学と我々の間に空間を作り出す。静的な密着感は、通常の読む文学体験からは損なわれる。だが、彼女の生み出す文学体験からは、動的な空間の物語的展開が新たに得られるのである。

作品名:音楽レビュー 作家名:Beamte