音楽レビュー
People In The Box『Bird Hotel』
People In The Boxは奇妙な幻想を作り上げる。それはおとぎ話のような世界であり、音楽もまた不可思議でメルヘンチックなのである。だが、彼らの音楽について語るにあたって、そのような皮相的な把握で済ませるわけにはいかない。メルヘンが、読者を現実から引き離すと同時に、再びより深く現実へもぐりこませる、現実における真実を寓話的に再認識させるのと同じように、彼らの音楽は、現実や社会というものから遊離するようでありながら、より一層深く現実や社会の真相に迫るものであるといえる。
彼らの語る「世界」が社会と密接に結び付き社会を包含するものであること、また彼らの語る「神」が決して単なる超越的存在者なのではなく社会的権力や不可視の権威をも意味するものであることは、彼らの歌詞に頻出する「革命」「暴動」などの社会的なモチーフとの連関を考えれば明らかであろう。彼らは何よりも社会を歌っている。そして、社会とは決して整然としたシステムなのではなく、奇妙で謎に満ちて幻想的な歌とリズムを備えているのである。
社会は人間が作り出したものであり、社会を見る目もそれゆえ、バイアスがかかっている。私たちは社会を、自分たちの理性の産物として、自分たちの理性と同じように秩序を備えたものだと見ている。だが、People In The Boxがひそかに訴えかけているのは、そのような視線に対する懐疑なのである。秩序という仮象、制度という仮象、それらの仮象を取り去ってしまえば、そこには何とも奇妙でグロテスクな社会のありのままの姿があるのだ。しかもその社会は音楽としてとらえられている。分裂し運動する奇妙な音楽こそが、仮象を取り去ったときに見えてくる社会のありのままの姿なのだ。