音楽レビュー
Ben Lee『AWAKE IS THE NEW SLEEP』
このアルバムのキーワードは「like」である。「好き」という意味であるが、「love」でも「hate」でもなく、飽くまで何事に対しても「like」という態度をとるということ。それは、相手に対して好意を伝えるということであるが、自分というものを軽くし、ただ軽い行為を相手に贈与し、そのまま微笑し続ける、それだけの行為である。感覚が感情・思考・実践よりも優位なのだといってもいい。「like」はあくまで感覚である。世界や他人を何となくいいと思うこと。そこにすべては収斂していくので、「love」も深刻にならないし、「do it whatever it is」のような軽い実践が生じるし、「thinking about how i just wanna open up」といった軽い思考が生じるのである。
「like」をフリーペーパーのように、いつでもただで持って行っていいよ、と置いておくこと。そんな気軽な優しさでこのアルバムは構成されているのだ。「like」は「like」を呼ぶ。好きだと発しておけば、好きだと返ってくる。そのような、好感覚の際限のないやり取り、そこに、感情や思考や実践も絡め取られていく。だがそれゆえにこそ、そのささやかさは圧倒的な感動を生むのである。というのも、我々の日常というものはこの「like」のやりとりによって大部分が構成されているからだ。twitterのお気に入りやFacebookの「いいね!」を例に挙げるまでもなく、好意の気軽なやり取りは我々の生活の潤滑油である。それがささやかに差し出されることで、我々は不思議と深い衝撃を受ける。それは、このアルバムを聴いていると、その気軽なやり取りの圧倒的な厚みと膨大さに気づかされるからであろう。