青息吐息日記
小さくなっていく佐名の顔は、最後は気まずそうな半笑いだった。小金井はさっきよりうつむいて、「どうしよう……」と呻いている。たぶん彼女は、関係を知られたことより、佐名が黙っていたことを怒っていないか、友人として失望していないかを気にしているんだろう。まぁあいつのことだから、一言謝れば許してくれるだろうが。
落ち込む彼女の代わりにブザーを押す。つぎとまります、のアナウンスを聞くと小金井は顔を上げて、ありがと、と言った。
「はぁ、やっぱちゃんと言わなきゃ駄目だよね」
「そうだな」
「由香里ちゃんにも怒られるかも」
「はは、月曜日かぁ」
小金井は、うん、と頷いて、ふっ切れたように小さく笑った。
次のバス停が近づいたことを知らせるアナウンスが流れる。重いカバンをかけなおし、小金井が立ち上がった。細かい刺繍の入った財布から小銭を出すと、俺の顔をちらっと見て照れながら口を開いた。
「私も、書いてるよ」
「え?」
「日記」
「……なんて?」
「……ヒミツ」
ふふ、と小金井が頬をほんのり赤らめて笑うと、ちょうどバスが停車した。バイバイ、と小さく手を振る彼女を、俺は黙って見送ることしかできなかった。
ぷしゅー、という音をたて、扉が閉まる。
急に、彼女の笑顔が恥ずかしくなった。
小金井の日記には、どんなことが書いてあるんだろう。
俺のことが、書いてあったらいいな、と思った。