青息吐息日記
と思っているが、揺れるバスの中で、カバンに入った日記帳を確かめるように抱え込んでいる俺がいて、どうも俺はいつもと違うようだ、と改めて気付く。俺はアホか。
バスには、友達同士盛りあがる高校生たちのほかに、一般の乗車客もまばらにいる。優先座席で居眠りかけているおじいさん、似合わないギターを背負った大学生、買い物袋を下げたおばさん連中、まだ夕方だというのにスーツ姿の中年サラリーマンもいた。もしかしたら、このおっさんが俺の本当の父親かもしれない、と考えてみる。自分でも馬鹿馬鹿しいとは思うが、可能性としてはゼロじゃない。母親も言っていた、顔もわからないと。いや、それでも本当に馬鹿らしいたとえ話だ。普段は平気なはずなのに、少しバスに酔ったのかもしれない。
──そういえば、聞いた?
──ん、あぁ、なんか2組の……?
──そう、不登校の……さん。
後ろの席から、同じ高校だろう、女子の会話が聞こえてくる。それは小声だったが、なんせ席が近い。嫌でも耳に入ってきた。
──その子、誘拐されたらしいって。
──こわー……
そして俺は、同じクラスの彼女を思い出す。
最後に会ったのは、夏休みの祭りだった。休み明けから急に学校に来なくなって、関わりのあったやつはみんな心配してたけど、本人は元気らしかった。誘拐されたらしい、というのは今朝初めて聞いた話で、この話題は学校中を駆けめぐった。もう聞くのは十回目だ。噂はすぐに広まった。
早川、元気にしてんのかな。
窓を開けると、申し訳程度に風が頬をかすめた。
あの夏の日が、なんだか懐かしかった。