流れ星
「もう余計な事ばっかり言わないで! 私の結婚式なんだから私の好きにさせてよ!」
思ってもない言葉? きっと心の何処かで息を潜め隠されていた言葉で、それがつい出てしまった。
勿論私はお母さんの強烈な平手打ちを頬に受けて、高校時代の反抗期を彷彿する顔で母を睨んでいたと思う。
昔と何も変わっていない。昔と同じ様に「わー!」と泣きながら家を飛び出してしまった。
我ながら三十路が近いというのに情けない。何時まで経っても母の前では子供であることを隠せない。
「あれ? お母さんの子供っていうのは当たり前か」
私は自宅近くの公園に逃げ込み、一人ブランコに揺られ呟いた。
公園内は電灯が点ってるにしろ、薄暗い公園は不気味で、人気の無い公園に古びたブランコのキィーキィーという鎖の音だけが響いている。
これでは高校時代というよりは小学校、中学校時代にまで遡っている行動だ。
でも、そんなの関係ないと踏ん切りをつけて子供時代に帰ったかのようにブランコを漕いだ。
大人だってブランコを漕ぎたい時だってあるんです。大人、大人言うけど私は楽しいことは無邪気にやっていきたい。
ブランコが勢いをつけて前後に揺られる。心が高揚してきてどんどん漕ぎながら雲ひとつない夜空を見上げると、無数の星の光が見えて、それが段々近づいて来たようで楽しくなってきた。
「うわぁ……綺麗――」
「わっ!!」
「わあああああ!」
心臓が飛び出しそうなほど驚き、思わずブランコからお尻が落ちそうになるのを必死に鎖を掴んで堪えた。
「びっくりした?」
「なによいきなり、何時帰って来たの?」
「ついさっき帰ったとこだよ」
妹の麻里はブランコに腰掛けながら言った。
私はブランコを漕ぐのを止めないで「よく私の居る場所が解ったわね」と怪訝な表情を作り言った。
「お母さんがどうせこの公園だろうって」
「流石お母さんね。なんでもお見通しってね」
「別に私だってお姉ちゃんの居る場所ぐらい想像つくわよ」
「……それでなに? 連れて帰って来いって?」
「ううん、ごめんだって」
「……そう」
それだけ呟いて、暫らくの間ブランコをただ漕ぎ続けた。
麻里も黙ってブランコを漕ぎ出した。
「お姉ちゃんが結婚するなんて、なんだか想像出来ないなぁ。でも、いい人見つかって良かったね。嵐の松本君にそっくりじゃない」