微風
何度か一緒に歩いて帰ることになり、パチンコ店にも一緒に入った。自宅から通勤している直美は、パチンコ店に長時間居ることはなく、ほどほどに貯まったら景品替えて「もう帰るね」と言って出て行った。私はパチンコ店で、直美のことを思いながらそのまま続け、たいていの場合は負けたり、まあまあ対価の景品を持って帰るということになった。パチンコ店でいろいろと思いをめぐらせても、直美の気持ちが分からないことには変わりはなかった。
ゲームセンターの中で、直美が財布を取り出そうとしてハンドバッグを開き、そのまま落とした。途中で椅子にぶつかったせいか、ハンドバッグの中身をばらまいてしまった。あっと言ったまま、直美はすぐにそれを拾おうとはせず、私の顔を見た。私はハンドバッグを拾って直美に手渡した。そのあとのこまごましたものはプライバシーのこともあるので、そのままにしていた。
直美がやっと拾いはじめたが、まわりに人がいるので早く終わらせようと私も手伝う。そして私が拾おうとして手をかけた手に直美の手が重なった。柔らかい感触があって、くくっという直美の小さい笑い声。
「カルタ取りみたい!」
「笑っている場合か?」私も半分笑いながら言う。
バッグの中はぐじゃぐじゃであろうけれど、どうにかしまい終えた。
「私ってドジなのよねー」小さい声で直美は言ってハンドバッグを閉じた。
「もう出ようか」と私は直美の柔らかい手の感触がかすかに残るまま言った。単にそれだけのことでより親密になったような気分だった。