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ふうギャル日記♪~ユキの物語~

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服装が派手になってくるでもなく、夜遊びをしだすわけでもなく、黙々と、週1回の休みと生理の1、2日以外は毎日、12時に出勤してきては待機室で自分で作ってきた手作り弁当を食べ、慣れない下手くそな化粧をし、他の女の子とも仲良く健気に仕事をこなしていくのである。

コースから帰ってきた女の子の表情を見るのは店長の大切な仕事である。
泣きそうな顔で帰ってくる子。
怒って帰ってくる子
嫌なことがあっても感情を殺して帰ってくる子。

「おかえり!御疲れ様。今のお客様どうやった?」
私の、この一言で急に泣きだす子もいれば、怒りだす子もいる。
私の店では待機室でのお客様の悪口とホストの話は禁止にしている。
皆、それを充分理解してしてくれているので、女の子がコースから帰ってきて
無茶なお客様の為に涙を流しているのを見ると胸が潰されそうになる。

しかしユキは泣き言ひとつ言わない・・・
最近は慣れてきて、感じることをコントロールすることも覚えたらしいが、あの打ち出しをみて来店されるお客様である。
責めず好きのお客様ばかりを相手にしているはずで、相当キツイものがあるとは想像できるのだが・・・

「おかえり!いまのお客様どうやった?」

という私の問いかけにも

「うん!いいお客様やったよ!」

という返事しか帰ってこない。
忘れもしない8月16日。
ユキに本指名のお客様が帰ってきた。
受付スタッフのボブ(日本人です・・・)が御案内カードを大事そうに隠して待機室に入ってきた。

「ハイ!ユキさ~ん90分コース入りました!」
「は~い」とユキがいつもどおり元気よく返事する。

受付スタッフのボブ(日本人です・・・)がニヤニヤしながらなかなかユキに御案内カードを渡そうとしない。

「ユキさん。本指名のお客様です・・・おめでとうございます。」

一瞬、騒がしかった女子待機室が静まりかえった。
次にユキの一番仲のいいミユと蘭が声を出して泣きだした。
私の中にも熱いものが込み上げてきた・・・
ユキはボブから両手で御案内カードを受け取り、こうつぶやいた。

「嬉しい・・・私にもお客さん・・・本指名のお客さん・・・」

言葉が詰まってなかなかでてこない。
その時、女子待機室にいた女の子全員が「おめでとう!ユキちゃん」と拍手を送って祝福した。
たった1本の本指名である。
未経験の子でも早い子は次の日のにでも返ってくることもある。
週末の忙しい最中、他の女の子が次々とコースに行く中、一人最後まで待機室に残って他の女の子に「いってらっしゃ~い」と明るく声を掛け、他の女の子に化粧の仕方を聞いたり、生まれて初めて髪の毛を染めてみたり、他の女の子のNG客に進んでついたり。

皆、ユキのその健気な努力をしてきたからこその、「本指名」だとわかっている。
私はこの店に責任者として関われる自分をこの店舗を誇りに思える忘れられない瞬間だった。

8月が終わった時点でユキの成績は本指名4本、手取り収入597.800円。
初めの本指名がよほど自信に繋がったのか、最近のユキは見違えるほどイキイキしてきた。
店舗の環境もかわりつつある・・・。
他の女の子も、一度付いたお客様の特徴や、会話した内容などをノートにしっかりメモをして接客の反省や、次の接客の参考にしている。
当時ウチの店の二枚看板の一人、美香は10月の指名を今までの自己記録であった68本から、97本と飛躍的に指名本数を伸ばし、その後、風俗を上がるまで、その勢いは衰えることはなく、最高月間本指名数を105本まで伸ばすことになる。
もうひとりの看板嬢の、亜里抄も着実に進歩し、2007年の風俗全国紙『HE◎EN関西版』年間ベストコンパニオンの第3位になった。

「お父さん、ちょっといい?」
「なんやユキ?」

 9月の頭になって急に私に話があると、営業終了後に私が作業している奥の小部屋に訪ねてきた。

「これ見て・・・」
「なんやこれ?」
「うん・・・」
「アクトファイナンス?」
「うん!1つ返済終わってん!」
「そうかぁここにナンボ借りててん」
「50万円」
「凄いウルサイとこで返済がちょっとでも遅れたら速攻、鬼電かかるトコやってん・・・。」
「今日、店に来る前に全額返済しに行ったら、貸付枠広げるから今後ともよろしくお願いしますやって!」
「金融屋なんてそんなもんや!」
「ウチ、ムカついてカード返してきたった!」
「うん。」
「あと借金ナンボや?」
「あと、420万!」
「まだまだ先は長いな・・・」
「うん・・・でも私、頑張るから!」
「最近、おばあちゃんどないや?」
「あんまりよくない・・・もう歳やから何回も手術できひんらしくて・・・来週からまた入院せなあかんみたい。」
「ユキ?」
「何?お父さん。」
「お前なんでそんなに頑張れるんや?」
「ウチ、おばあちゃん大好きやねん。私が高1の時お母さんが癌で死んで、お父さん私を置いてどっかいってもうて帰ってこんようになってもうて親戚のオバちゃんの家に引き取られるはずやってん・・・高校辞めて、オバちゃんの家の美容室手伝うことになってん。」
「ウン・・・。」
「だけど、その時掃除婦の仕事であんまり収入のなかったおばあちゃんが泣いてる私におばあちゃんトコおいで!高校行ったらええよ。ってウチに言うてくれてん。」
「そうか優しいおばあちゃんやねんな・・・」
「うん!それに私のこと可愛いって言うてくれるんもおばあちゃんだけやし!」

約1カ月後・・・。

凄いことが起こった。
なんと、在籍数56名の私の店の中でユキが10月度の本指名数60本、手取り給与2.190.5000円でトップになったのである。
これには、当時私が所属していたグループの幹部全員が驚愕した。
ユキを採用した後に何故ユキを採用したのかと詰め寄った幹部も、この奇跡に驚きを隠せなかった。
一部の女の子の間にはユキの本番疑惑まで噂されたが、ユキが処女であることを知り、その噂も収まり、ユキが心を痛めるようなことはなかった。
私の店では月初めの第1土曜日の営業終了後に女子ミーティングを行う。
前月の本指名数の1位~3位、出勤率の1位~3位、縁の下の力持ち賞(新人の女の子に対して気遣いをしてくれた子や、女子待機室の整理整頓をすすんでしてくれた子を表彰するもの) などを発表し、来月の個人目標や店舗に対しての要望、苦情など、また店舗から女の子にたいしての連絡事項や要望を話合う日にあてている。
原則全員参加。
次の日が本業があるものや家庭があり、夜間出勤できない子は別にし、ミーティング費用として店舗から1人5.000円が支給されるが、大抵は女子ミーティングの後に食事会をしたりカラオケにいって消えてしまう(笑)

全員の表彰が終わりユキに一言月間1位になった感想を述べてもらうことになった。
ユキは女子待機室の一番奥から照れ臭そうにみんなの前に出てきた。

「照れ臭いやろうけど何か一言もらえるか?」

「ハイ・・・」
「・・・」
「ユキぃ!ほら頑張ってェ」