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てっしゅう
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神のいたずら 第五章 家族旅行

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碧は優の腕の中で直ぐに寝息を立てて眠ってしまった。自分に子供が出来たらこんなふうにして眠るのだろうなあ、と思いながら、あどけない寝顔をいつまでも眺めていた。良くみると、12歳とは思え無いほどに艶のある肌と外人の血がそうさせたのだろうか、高い鼻と細い指・・・これで大人になったら、ちょっと想像しただけで羨ましくさえ感じた。

もう直ぐ大人になるだろうその身体を傷つけて欲しくないと、母親のような気持ちで見守ってやりたいと心の底から思い始めていた。
優の何がそう思わせるのか分からなかったが、碧から発せられるオーラのようなものが強く感じられるのだ。それは隼人の優への強い想いが形を変えて伝えられようとしているのか、碧の心に潜む隼人の想いを、優は別の形で感じられたのか分からなかったが、碧と優の関係は生徒と先生を越えていた事は間違いなかった。

翌朝高橋の両親に買ってもらった洋服を着て碧と優は新幹線に乗って東京に向かっていた。夏休みの週末土曜とあってディズニーなどへ行くのだろうか、親子連れで車内は大混雑していた。何とか指定席が取れて三人掛けのBとC席に座ることが出来た。

A席で本を読んでいた50代ぐらいの女性が碧を見て、
「お嬢さん、窓側がいいでしょ?代わってあげるからどうぞ」と声を掛けてくれた。
「ご親切にありがとうございます。この席で構いませんので」とそう返事すると、
「まあ、立派なご返事!お母様のご教育が宜しいのね」と感心して優を見た。

「ママじゃ無いですよ・・・先生です」
ちょっと驚いた様子で、言葉を返す。
「そうでしたの。これは失礼しました。お若いお母さんだとは思いましたが・・・先生ですか」優は少し頭を下げながら、
「はい、私の生徒なんです。共通の知り合いを訪ねての帰りなんです」
「そう・・・どちらの学校なの?」
「目白にある中学です」
「お嬢さん中学生なの?・・・そう・・・可愛いから小学生かと思っていました」
「よく言われるんです・・・ガキって・・・」
「若く見られるって素敵よ・・・私なんか自信があったのに、もう誰からも50代って言われてしまうから、悲しいわ」
「ママは42歳だけど、同じぐらいに見えますよ。ねえ?先生もそう思うでしょ?」
「そうですね、お若く見えますよ。50代だなんて・・・見えませんから」優は碧に促されてそう言った。この女性に気を遣っていることが良く分かったので、相槌を打ったのである。

「ありがとう・・・そう言って頂けただけで嬉しいわ。先生もお美しい方ね。ご結婚されていますの?」
「いえ・・・一人です」
「もったいないわね・・・世の中の男性も見る目が無いのかしら・・・」
「先生は恋人を事故で亡くしたんだよ・・・今その人のご両親に会って来ての帰りなの。そんな言い方しないで・・・」
「ゴメンなさい・・・何も知らないで好き勝手言ってしまったわ・・・本当にごめんなさい」深く頭を下げた。

「宜しいのですよ・・・お気になされなくて。碧ちゃん、失礼よそんな言い方して!謝りなさい」

目に涙をためて・・・優のことが可哀相に思ったから言ったのに・・・

新幹線は東京駅に着いた。母親の由紀恵はホームで二人を待っていた。出掛けた時と違う服を着ていた碧を見て、
「どうしたのそのお洋服・・・先生に買っていただいたの?」
「違うよ。高橋のお父さんに先生と一緒に買ってもらったの」
「そう・・・お礼を言わないといけないわね、結構高い品物みたいだし」
「お母様・・・すみません私が着いていながら。先方がどうしてもと仰られて・・・お断りするのもどうかと思って頂きましたの」
「碧や先生が訪ねてきて嬉しかったのでしょうね、ご両親も。私からお電話しておきますから。先生どうされます?お昼まだでしょ・・・どこかでご一緒しましょうか?」
「ええ・・・そうですね。じゃあお邪魔しようかしら」

三人は混雑する渋谷で降りて、食事をした。通りがかりの何人かの男性が優と碧に振り返る。人ごみの中でもひときわ目立っていたからである。

自宅へ戻った碧はちょっと疲れたのか居間のソファーで眠ってしまった。弥生は新しい服を着ているのを見て、
「ママ、買ってあげたの?」そう聞いてきた。
「ううん、名古屋に行って向こうで買ってもらったの」
「名古屋で?・・・前島先生の恋人だった人のお家?」
「そう・・・碧も良くしてもらっているの」
「そうなんだ・・・碧も」

兄弟でありながら、自由にしている妹が羨ましく見えてきた。眠っている姿を見ても自分とは明らかに違う容姿に嫉妬すら覚えてしまう。受験を来年控えているとは言っても、恋人も居ない、遊びにも行けない自分が惨めに見えた。それにもまして、碧の成績が学年一番であることも弥生には信じられないことでもあった。

「この子はもう昔の妹じゃない・・・」
その思いは日増しに強くなってゆく・・・

「お姉ちゃん?どうしたの。碧をじっと見て・・・」
目を覚ました碧は姉が自分を見ていたのでそう聞いた。
「起きたの、お帰り・・・碧がなんだか他人に見え始めてきた・・・お姉ちゃん、寂しい気がする」
「えっ?そんな事思っているの・・・どうしたらいいの・・・嫌いになったの・・・」

涙腺の緩い自分が情けなく思えたが、今は弥生の寂しそうな言葉に涙が零れてきた。

由紀恵は二人の中に割って入った。
「弥生、他人に見えるなんて・・・なんて事を言うの!ずっと一緒に暮らしてきたのに」
「ママ、碧は昔の碧と違うよ。ママだってそう感じているんじゃないの?」
「ううん、感じてない。碧は昔のままよ。心と身体の変化が急に来ただけ・・・このぐらいの年齢には良くあることなの」
「ママはいつも碧のことばかり・・・」
「弥生はお姉ちゃんだから・・・少しは我慢できるでしょ?今が大切な時なの、碧には。お願い分かってあげて」
「私はどうでもいいのね、ママは・・・」
「そんな事言ってないでしょ!小さい子と一緒には出来ないって言ってるの。受験を控えて気持ちがナーバスな事は分かるけど、まだ事故から半年も経っていないのよ。そろそろ落ち着くから・・・ね、あと少し・・・弥生のことも大切に思っているから」

碧は姉のことが可哀相に感じた。自分が我儘を言っているせいでそうさせているのだと。

「ママ、私はいいからお姉ちゃんの事気遣ってあげて・・・もう勝手な事はしないから・・・お姉ちゃん、ゴメンなさい・・・碧の事嫌いにならないで・・・お姉ちゃんが好き、碧のこと一番大切に思ってくれているから・・・他人じゃないよ、他人じゃない・・・」
「碧・・・お姉ちゃんが悪かった・・・他人のようだなんて言って。きっとママが碧のことばかり話すから嫉妬していたのよ。受験だからなんて関係ない・・・今までどおり仲良くしようね」
「うん、お姉ちゃん・・・」駆け寄って抱きついた。
二人の様子を見て由紀恵は涙した。事故が起こる前の碧と弥生はこんなふうじゃなかった。あまり話しもせずに仲が悪いわけではなかったが気持ちが通じ合っている様子に見えなかった。怪我の功名とでも言うのだろうか、兄弟の心が通じ合っているように見えた。

「今日もお姉ちゃんの部屋で寝たい・・・」
「いいよ・・・おいで」