ひとり芝居
「バスのシートの上にありました。二日前の夜のことです」
「そうでしたか……と、いうことは、同じシートに座っていたということですね」
「一番後ろの席でした」
「そうですか。二度とこういうことがないように気をつけます」
「わたしも、気をつけます」
坂井はコーヒーを飲んだ。
「お食事はまだですか?」
坂井が訊いた。
「家に用意ができています」
「そうですか。ちょっと待っててください」
坂井はお礼として、コーヒー豆を買ってめぐみに渡すことにした。それを注文するために店長に近づいた。用件を伝えると、坂井は席に戻って驚いた。自分のコーヒーカップだけがテーブルの上にあり、西川めぐみの姿はなかった。
定期入れを調べると、定期券だけが入っていて、どこにも自分の携帯番号は書いてなかった。坂井は携帯電話の着信履歴を調べてみた。彼女から着信した形跡は、なかった。彼はまた店長のところへ行き、彼女が店から出たかどうかを尋ねた。