ひとり芝居
「面白い!全然知らない男女が、別々の場所で、同時に同じ夢を見ていたなんて!」
坂井の大声のせいで、周囲からの多くの視線を浴びることになった。
「すみません。お静かにお願いします。ご注文は?」
やや高齢の店長が来た。
「失礼。ブレンドをふたつ、お願いします」
「叱られてしまいましたね」
「そうですね。ところで、なぜ警察に届けなかったのか、よろしかったら聞かせてください」
「それはですね、前に財布を届けたら、何時間も取り調べをされたんです。善意で届けた者に対しても、盗んだ可能性があるという考え方が、警察にはあるということです」
「そうでしたか。いやなところですね、警察というところは。盗んだ財布を警察に届ける人間なんて居ないでしょう」
コーヒーが来た。
「運が悪ければ窃盗犯にされて、前科者にされてしまうかも知れないんです。落とした人が、入れてあった金額より少ないと主張する場合もあるわけです」
「そうですか。疑うことが仕事だったら、警察官をやめたくなる人もいるでしょうね……今回はとにかく僕が、定期入れを落としたのがいけなかったということです。本当に申し訳ないことをしました」