ひとり芝居
「すみません。遅くなりました」
「いいえ。ぴったり、八時半です」
笑顔が可愛いと、坂井は思った。
「そうですか。ありがとうございます。わざわざお電話を頂いて、恐縮です」
坂井は席に着いた。
「いいえ。すぐに持ち主に返せるなんて、わたし、幸運だと思っています」
「僕も幸運です。感謝しています」
「……はい」
西川めぐみは、バッグから出した坂井の定期入れを、テーブルの上に置いた。坂井はそれに手を伸ばして持つと、自分のショルダーバッグにしまった。
「本当に、ありがたいですよ。買ったばかりで、有効期限が半年近く先ですからね」
「そうですよ。買い直してませんよね」
「はい。明日あたり、買おうかと思っていました。でも……そうそう、戻って来たことを、今朝の夢のなかで……」
「本当ですか!わたしも今朝、同じ夢を見ました」
めぐみは笑いながら、大きな声でそう云った。