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ひとり芝居

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「そうではありません。鮮やかな緑色のタイトル文字が大きくて、遠くからでも読めるんです」
 その本は、山で木の種類を調べるために買ったものだった。
「わかりました。八時半に、なるべく入口に近い席に居るつもりです」
「私の迂闊さのために、ご迷惑をおかけして、申し訳なく思っています」
「いいんですよ。気にしないでください」
「すみません。よろしくお願いします」
会うことになった。喫茶店で待ち合わせをすることになった。約束の時刻は午後八時半。坂井は慌てて着替えると、すぐに外出した。時刻は八時五分過ぎだった。
 バス停までは歩いて五分だが、走ると一分で到着できると思った。坂井は走った。バスに乗ってからは駅前まで十五分から二十分、バスを降りてから「ゴダール」までは走れば二分以内だろう。
 バス停に着いたとき、彼はバスの後ろ姿を見ることになった。次のバスは十分後である。車道に出てタクシーに乗ることにした。
 タクシーに乗ったのは、それから十分後のことだった。タクシーのすぐ後ろに次のバスが来ていた。店の前でタクシーから降りた坂井は、入り口付近の席に居た若い女性が立ち上がるのを見た。
作品名:ひとり芝居 作家名:マナーモード