桜の下の秘か
二
風に吹かれ、散った桜の花びらが視界を遮る。
せっかくもうじき満開を迎えるのに、散ってしまう。
そんなことを思いながら花びらを目で追った。そして薄紅色に染まったはずの山に、異色を見つける。夜の闇のように濡れた黒が桜の花びらと共に流れていく。
――綺麗だ。
その光景に目を奪われているに風が止み、ふわりふわりと緩やかに空を舞う桜の花びらが、その異色を露わにした。
流れる黒から覗いた赤から鈴を転がすような澄んだ声が発せられた。
「こんにちは」
それは桜の花の化身か。
流れる黒髪の下から現れたのは桜色の振袖を纏った美しい女だった。
異形の者かと本能的に畏怖し言葉を失う僕に、彼女は柔らかな笑みを浮かべ、細く白い首を傾げた。
「此処はとても桜が綺麗なのね。私も貴方と一緒にお花見をしてもいい?」