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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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愛されたい 最終章 家族

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「びっくりしたの、そんな事聞くから・・・」
「高志さん、最近優しくないから・・・つい聞いちゃったの」
「あらあら・・・そうだったの。同じところに住んでいるから、気を遣うのかも知れないね。たまには外でデートしたらどうなの?」
「うん、戻ってきたら、一緒に出掛けてもいい?」
「いいわよ。遊びに行ってらっしゃい」

智子は高志が戻ってきたら、少し話そうと思っていた。

今お父さんの家を出て帰るところだと有里からメールが来た。
ホテルのロビーで清算を済まし、寛いでいた時だったのでどうするか横井に相談した。

「ねえ、今帰る途中だとメールが来たの。どうしましょう?」
「そうだな、5人乗るのはちょっときついから先に家に帰って待ってようか」
「そうね、じゃあそう返信しておくわ」
「なあ、智子。こうしてみんなで出掛けるようになると、この車じゃ無理だから、キミがワゴン車買ったらどうだ?」
「大きいのに私が乗るの?」
「中が広いだけで大きさはそんなに変わらないよ。運転出来るって」
「欲しいけど・・・いろいろお金使ったから、辞めておきましょう。有里が社会人になったらその時に買えばいいんじゃない?」
「じゃあ、この車をワゴンに変えようか?」
「エコカーでしょ?勿体無くない?」
「次もエコのワゴンにすればいいじゃないの?」
「出てるの?」
「ああ、7人乗り出てるよ」
「一度見に行きましょうか。それから考えさせて」
「ああ、キミの言うとおりにするよ」

「お父さん、いつからそんなに相談するようになったの?」
「美咲、変なこと言うなよ。わがままだったように聞こえるじゃないか」
「違うの?」
「違うよ・・・そりゃ、香里とはぶつかったが、俺がわがままだった訳じゃないよ」
「お父さん!お母さんのいるところで名前出したらダメ!解ってないなあ・・・お母さんお父さんの前で言わないでしょ!気になるんだから、しばらくは。謝って!」
「美咲・・・気付かなかった。智子ゴメンよ・・・」
「ううん、いいのよ。今はあなたと私は夫婦と同じ。過去は消せないし、しばらくは付きまとうの。気にしてたら一緒に暮らせないから。美咲、お父さんを責めないであげて」
「お母さんは本当に優しい・・・お父さんには勿体無いよ」
「酷いなあ・・・もう、反省してるって」

家に着くと有里と高志は先に帰っていた。
「早かったのね。どうだった?」
「うん、再婚相手と会ったよ。同級生だって言ってた」
「そう」
「お年玉も貰っちゃった。それから、あの家買い手が見つかったんだって。母さんに伝えて欲しいって、これ渡された」

高志が手渡した書類は仲介業者の見積書だった。

智子は中を見た。概算だが販売価格は3500万と書かれてあった。ほぼ土地の公示価格と同じぐらいだった。バブル時期は8000万と算定されていたが、下がれば下がるものだ。今は半分以下になっていた。それでもほぼ買ったときの土地の値段と変わらなかったので良しとしなければいけないと見積書を見ながら思った。

「有里、他に何か言ってなかった?」
「言ってなかったよ。再婚相手を紹介してくれて・・・今渡した書類のこと頼まれて・・・お年玉とおばあちゃんが私と高志に学費の足しにって、これくれたぐらい」
これ、とはお金だった。
「いくら入っていたの?」
「まだ見てない。糊付けされていたから見ないで帰ってきた」
「開けてみて」

有里はハサミを入れた。

「50万入ってる!」新札だったので膨らんでいなかったからそんなに入っているとは有里は思っていなかった。

「まあ、そんな大金・・・お母さん電話しないといけないわね」
「おばあちゃんが、お父さんは出直すからこれからは連絡してくれなくてもいいと言ってたよ」高志がそう智子に伝えた。

「ほんとう?」
「私も聞いたよ」有里が念押しに言った。
「そうなの・・・なんか手切れ金みたいね」
「そんな言い方やめてよ!お母さん。お世話になったからって言う意味だよ、おばあちゃんは」
「ゴメンなさい・・・そうね、私どうかしてた」
「新しい相手のこと気にしてるの?」
「有里・・・まったく無いと言えばうそになるけど、これで最後にする、お父さんのことは。辛くない?二人とも」
「うん、俺もお姉ちゃんも帰りに話しあってきた。もうお父さんとは会わないって。新しいお母さんにも子供が居て、一緒に暮らすそうだから、もう僕たちが邪魔しないようにしようって、お姉ちゃんと決めたよ」
「高志・・・有里・・・ありがとう」

平成10年の正月は終わった。形の上での智子と伸一は去年の11月1日に終わっていたが、智子の心の中で今日が区切りとなったことに改めて気付かされた。

「ねえ、高志。明日にも美咲と遊びに出掛けたらどう?寂しがってたわよ」
「母さん・・・そんな事美咲が言ったのか?」
「違うの。そう感じたからあなたに言ってるのよ。違う?」
「確かに忙しくしていたからこの頃二人で遊びには行ってないよ」
「じゃあ、連れて行ってあげて。水族館とかプラネタリウムとかどう?」
「いいね、名古屋港水族館に行ってみようかな」
「そうしなさい。帰りに大須にでも行ってお買い物してきたら?お年玉貰ってるでしょ」
「いいね、それ。決まった!そうするよ」

久しぶりに高志とデートすることになった美咲は浮かれていた。
「ねえ?お母さんのお洋服貸してくれない?」
「私の洋服を?」
「ほら、初めて私が訪ねたときにお姉さんが着ていたワンピースのこと」
「あれね・・・着れるかしら?」
「デブって言うこと!」
「違うのよ。おばさんぽくないかって言うこと」
「有里さんも着ていたのよ。ぜんぜん大丈夫よ」

翌朝美咲は智子のお気に入りのワンピースを借りて高志を待っていた。
「お待たせ・・・美咲その服借りたのか?」
「うん、どう似合う?」
「へえ〜お姉ちゃんよりぜんぜん可愛いよ」
「高志!余計なこと言わないの。有里が聞いたら気分を悪くするでしょ」
「行ってきま〜す。本当なんだから仕方ないよ、母さん」
「もう・・・有里が可哀そう」

横井も智子も明日から仕事が始まる。今日は買い物をしてお弁当の準備をしないといけなかったから、午後からスーパーに有里と三人で行くことにした。たくさんの買い物客はみんな家族連れだった。それぞれの家族にそれぞれの幸せがある。悲しいときも嬉しいときも家族で支え合い喜び合うことが出来たら少しぐらい窮屈でも、不自由でも、幸せなのだ。愛情に飢えることなく病気や怪我で台無しにならない人生が続いてくれることを智子は願っていた。


平成15年4月高志は大学を卒業して難関の公務員採用試験で採用され、名古屋市役所に勤務となった。もちろん父親のコネが効いたことは否めない。有里は大学を出て自動車販売会社に入社していた。今年26歳になることでそろそろ結婚を考えていた。ずっと長く付き合っている彼は一つ年上で製造業に就職していた。勤務時間が合わないので結婚は必然と有里が仕事をやめる覚悟をしなければならなかった。このことが二人の気持ちのずれになりまだ婚約すら出来ない状況なっていた。