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てっしゅう
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novelistID. 29231
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愛されたい 最終章 家族

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「水野さんはご家族何人ですか?」
「美咲さん、私は一人暮らしなの。夫は亡くなってずいぶんになるし、子供は居なかったから本当に今は一人なの」
「そうでしたの。良かったらいつでも遊びに来てください」
「嬉しいわ、ありがとう・・・あなたたちにはおばあちゃんの年齢よね。61になったのよ今年」

文子の歳を聞いて子供たちは驚いていた。せいぜい母親の少し上ぐらいだろうと思って見ていたからだ。

「水野さん、若く見えますね・・・素敵です」
有里はそう言った。
「有里さんだったわね?ありがとう。お母さんに似て綺麗なお嬢さんね・・・素敵な彼氏が居るんでしょうね?」
「いえ、そんな・・・」
「お姉ちゃんラブラブなんだよ。イケメンじゃないけど、背は高いんだ」高志はふざけて見せた。
「そうなの・・・そうでしょうね。お会いしてみたいわね」
「高志!余計な事言って・・・」
「いいじゃないの有里さん。あなたのこと気にされてらっしゃるんだからね、高志さんは」

文子は横井や智子が幸せそうだと実感した。

平成11年の年が明けた。
2日の午後、高志と有里は泊りがけで楠本の家に出掛けていった。去年と同じように元日は間瀬の両親と野間大坊(のまだいぼう)に初詣に行った。今年は横井の両親も一緒に来たから大人数になっていた。

楠本の家に二人が出掛けて家の中は三人だけになった。横井は美咲を香里に会わせようと車のエンジンを掛けた。いろいろとあったけど親子だから正月ぐらいは話をしなさい、と言われて、あまり行きたくなかった美咲だったが出掛けることを承知した。一人で残されるのが嫌だったから、智子も着いて行った。車の中で横井と二人で美咲が帰ってくるのを待っていた。

「美咲は新しい旦那とうまく話せているかなあ・・・」
「どうでしょう。もう気持ちが落ち着いているでしょうからきっと大丈夫ですよ」
「そうだといいけど・・・」
「戻ってきたらどうしよう?俺たち三人だからどこかへ遊びに行こうか?」
「今から?」
「うん、泊まれるところ探してゆっくりしようよ」
「お正月よ。空いてるかしら・・・」
「ラブホテルとか?」
「バカ!もう正月から言うに事欠いて・・・美咲ちゃんと一緒になんか泊まれないじゃない!」
「怒るなよ。冗談に決まっているじゃないか。もう・・・」
「程がありますよ」
「今年初めての・・・しようよ〜 な?」
「美咲ちゃんに聞こえますから、だめです!」
「可哀そうじゃない?俺って」
「アホか」
「いつから関西弁使うようになったんだい?」
「呆れたからよ」
「ふ〜ん。ラブラブ過ぎるよな俺たちって・・・違うかい?」
「あなたは変態よ。私は普通だけど」
「酷いなあ・・・夜はキミの方が変態だよ、このごろ」
「もう、しませんから・・・私に触らないで下さい!」
「怒っちゃったなあ・・・黙っていよう・・・」

美咲が戻ってきた。
「どうだった?香里は」
「うん、加藤さんにも挨拶したよ。お金もくれた。お年玉とお小遣いだって・・・」
美咲はそう言って袋に入ったお金を見せた。10万円が入っていた。
「こんなに・・・お年玉って言う金額じゃないよ。どうする智子」
「そうね、返すもんじゃないから美咲ちゃんのお小遣いにすればいいんじゃない。高志と有里だってきっとたくさん貰って来ると思うから」

美咲は欲しいものがあるからこれで買いたいと横井に話した。

都心のホテルなら観光地と違って部屋が空いていると考えて、お城の見える「キャッスルホテル」に電話を掛けた。予想通り比較的部屋も選べるような状態だった。美咲は自分はシングルで泊まるから二人だけで泊まるようにと気を使ってくれたが、少し広めの部屋にエキストラベッドを入れてもらって三人で宿泊することにした。

駐車場に車を停めて、名古屋城のお堀の前を歩いて正面玄関に着いた。ドアーボーイが、「新年おめでとうございます」の挨拶で迎えてくれた。正月ムードを醸し出すロビーの演出に智子は久しぶりに正月らしい過ごし方が出来ると嬉しく思った。通された部屋からはお城が見える。有名な金のしゃちほこが見えた。天守閣の屋根に誇らしげに向かい合っている一対の鯱は愛知県民の繁栄を上から見守っているのだと思った。

智子と横井はその天守閣を見上げながらそっと手を握り合った。後ろから美咲がその手に自分の手を重ねた。智子は振り返って、この子の母親なんだという自覚が強く芽生えた。
「美咲・・・」
「お母さん・・・」
そう二人は呼び合うようになった。

美咲が風呂に入っている短い時間に二人は抱き合った。
「なあ、俺たち新婚旅行に行ってないから、休みをあわせて子供たちと一緒に出掛けないか?」
「いいわね。春休みなら子供たち時間が取れるからそうしましょう。どこに行きたい?」
「出来れば海外がいいなあ。ハワイとかオーストラリアとかはどう?」
「子供たちにも聞いてみて決めましょうか?」
「ああ、そうしよう。なあ、我慢できないんだ・・・してくれないか?」
「美咲が出てくるわよ・・・」
「だから・・・そのう・・・」
「いいよ。私のことは気にしなくて。あなただけで・・・」

「お先に・・・お父さんどうぞ」美咲はバスタオルを巻いた姿で出てきた。横井はちょっとドキッとした。
「じゃあ入るよ」乱れた浴衣姿で浴室に向かった。その姿を見てくすっと美咲は笑った。

「何がおかしいの?」
「だって私を見ておどおどしてるんだもの」
「それはそんな格好しているからよ。お父さんだって男だから」
「そうなの?いけなかった、お母さん?」
「仕方ないけど、今度からは服着てね」
「はい、そうします・・・そうなんだ、違うことだと思った」

美咲は・・・鋭かった。智子も目を合わせられなくなってしまった。

気まずい空気が感じられた智子は話題を振った。
「ねえ、いまおとうさんと話していたんだけど、あなたたちの春休みにねみんなで海外旅行しようって考えているの。どこに行きたいか高志と有里の三人で決めてくれない?」
「わあ、素敵!海外か・・・行ったことないから嬉しいなあ。でも、お父さんと二人でなくていいの?」
「どうして?」
「だって・・・新婚旅行になるんでしょ?一応」
「一応か・・・そうね、それも兼ねてよ。新しい家族みんなで行きたいの」
「美咲に気を遣ってくれなくてもいいのよお母さん、お父さんといちゃいちゃしてくれても平気だから・・・美咲だって、高志さんと仲良くしたいから」
「うん、でもちょっとあなたの前では恥ずかしいなあ。こんな年だし・・・美咲は高志と仲良くしてね。ずっと仲良くして結婚して欲しいって思っているから」
「結婚か・・・美咲ずっとお母さんの傍にいたい。高志さんと今の家で暮らせるの?」
「そうしてくれるとお父さんもきっと喜ぶわよ。赤ちゃん生んでも安心だしね。どんな子供が生まれるんでしょうね。可愛いだろうなあ・・・」
「私が子供を生むなんてまだ考えられないけど、いつかはそうなるのよね。お母さんは大変じゃなかった?」
「有里のときは、正直言ってしんどかったの。初めてのときはそうよねみんな。でも大丈夫よ。傍にいてあげるから」
「お母さんはお父さんとの子供が欲しいって思わないの?」