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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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愛されたい 最終章 家族

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まだ慣れない道をバス停から歩いて智子は新しい家に向かっていた。暮れのこの時期世間は静かになっていた。明かりが点いているのはコンビニとカラオケスナックぐらいだ。向こうからこんな時間にジョギングしてこちらに来る女性が目に入った。近くまで来てそれが文子だと智子は解った。

「文子さん!」
「えっ?・・・智子さん?」
「はい、智子です。ご無沙汰をしております」
「あら、智子さんじゃないの。どうしたの、こんなところで一人でいるなんて」
「ええ、お知らせしてなかったですね。ちょっと前にここに引越ししてきたんです」
「本当?新しく家を買ったの?」
「はい、この向こうの4件並んでいる戸建風のマンションです」
「ああ、あそこね。素敵じゃないの!誰が住むんだろかって近所の人も話していたから気にはなっていたけど、まさか智子さんたちが住むなんて思わなかったわ。そう・・・ご近所さんになった訳ね。嬉しいわ」
「私も嬉しいです。いつもこの時間に走ってらっしゃるのですか?」
「大体ね・・・寝る前に走っているの。一日の食べたものを燃やさないとね。あなた少し太ってきた?」
「イヤだあ・・・解ります?ちょっと気にはなっているんですけど、誰も言ってくれないからまあいいかって思っていたのに」
「ご主人相変わらず無関心なの?」
「そのことですが・・・離婚したんです。11月に。今は横井さんと暮らしています」
「誰と?横井課長と暮らしているの?本当に」
「はい、本当です。実は・・・淑子さんの一件から仲良くなりまして・・・」
「ねえ、詳しく話してよ!明日は時間ないの?」
「そうですね・・・良かったら自宅に来てください。4件並んでいる右から二番目が家ですから。仕事終わっていますから、昼ご飯でもいかがですか?」
「そんな事甘えていいの?横井さんもいるんでしょ?」
「お互いの子供たちも一緒なんですから、遠慮なさらないで下さい。ご近所の挨拶も兼ねて下さればいいじゃないですか」
「そうなの・・・じゃあ電話してからお邪魔するわ」

懐かしい文子との再会に智子はこの場所を選んでよかったと改めて感じた。

「ただいま!遅くなりました」
「お帰り。子供たちは二階へ上がったよ。遅くなったね」
「ええ、楠本との話は直ぐに終わったのですが、そこのバス停の前で文子さんに出会って、立ち話していましたの」
「文子さんと・・・この辺に住んでいたなあ、そういえば」
「バス停の向こう側ですから少し離れていますけど、ご近所になりますね。明日の昼ごはんお誘いしました。宜しかったわよね?」
「もちろんだよ。何していたんだこんな時間に文子さんは?」
「ジョギングをされていたわ」
「ほう、偉いなあ、あの歳で」
「私も走ろうかしら・・・少し太ってきたから」
「なかなか出来ないぞ、走るなんて・・・やせたいのならいい運動があるぞ」
「ほんと?どんな運動?」
「ベッドの上でやる運動」
「そんなことだと思ったわ・・・やせるのは身体じゃなく思いじゃないの?」
「そんな事ないよ。何故思いがやせるって言うんだい?」
「私が求めすぎるから・・・あなたが辛くなって、やせるの。フフフ・・・それでも構わない?」
「そんなあ・・・コワッ!なかったことにしてくれ」
「うそよ。バカなこともう言わないでよ。月に一度にしますから!罰で」
「勘弁してよ・・・漏れちゃうじゃない」
「漏らせばいいのよ。オムツ買って来ましょうか?」
「最近言うね・・・面白いけど、なんだか寂しいなあ」
「ご自分が悪いのよ。子供も大きくなっているし、あなたは良いお父さんを見せてくれないと困るの。甘えるのは止めてね。そうそう、楠本に高志と有里の学費をこれから半分にするって言われたの。あなたと住むって言ったから仕方ないわ。だから、頑張って仕事してよね。稼いでくれないと卒業出来なくなってしまうわよ」
「そうなんだ・・・なんだかプレッシャーだなあ」
「じゃあ、今日だけ甘えさせてあげるわ・・・一緒にお風呂入ろうか?」
「うん、そうしよう」

時に甘え、時に厳しくする智子の態度は母親のようにも、恋人のようにも横井には感じられた。

どんなに甘えていてもベッドの上では横井は男らしかった。智子はここでは完全に甘える方になっていた。子供たちに聞こえるような気がして遠慮していたが、身体は横井の動きにあわせて激しく上下させていた。

「智子はすごいね。いつも驚かされる」
「どうして?」
「俺の動きに上手に合わせてくれるから、感心する」
「恥ずかしい・・・自分が抑えられなくなるの。いやなら我慢するけど」
「イヤじゃないよ。キミが感じてくれるから俺もやりがいがあるんだから」
「私ってやっぱり淫乱なのかなあ?」
「どうしてそう思うの?」
「だって・・・どんどん感じてきちゃうんだもの。昨日より今日、今日より明日って・・・」
「今まで抑えてきたものが無くなったからだよ。それが自然なんだって考えたほうが良いよ」
「うん、でも無理はしないで。あなたのことが一番気になるんだから。前にも言ったけど、傍でこうしているだけで幸せなの。うそじゃないよ。甘えていたいの・・・少しの時間でもこうしてあなたに・・・大好きよ!行雄さんが、大好き」
「智子・・・俺も大好きだ」

智子との新しい歴史が始まった。愛することの幸せをたくさん感じて夢と希望に満ち溢れた家族も出来た。子供たちの健康と自分たちの健康、そして互いの両親の長生きを横井は祈らずにはいられなかった。

12月30日の昼前に文子から電話がかかってきた。
「はい、いまからですね。構いませんよ。横井もいますから」
「楽しみにしているわ。じゃあ、出掛けるから」
歩いて10分ほどの距離になった文子は普段着でやってきた。

「素敵なお家ね・・・へえ〜こうなっていたんだ。斬新ね。あら!課長、お久しぶりです。智子さんとご結婚なんて驚きましたよ」
「文子さん、お久しぶりですね。相変わらずお若くて綺麗ですね。この近所だったんですね、驚きました」

横井のいつものようなお世辞に苦笑いをしながら文子はテーブルに座り、二階から降りてきた子供たちを紹介された。

「こちらはねお母さんの前の会社で一緒に働いていた水野文子さん。この近所にお住まいなのよ。みんなご挨拶して」
「長女の有里です。初めまして。大学生です」
「長男の高志です。高校三年です」
「次女の美咲です。高校二年です」

美咲はあえて次女と名乗った。みんなは顔を見合わせたが、そのまま何も言わなかった。

「えっ?3人も居たっけ、智子さん」
「美咲ちゃんは行雄さんの子供なの。正確には横井美咲なんです」
「結婚したんでしょ?だったらみんな兄弟よね?」
「いえ、籍は入れないんです。訳がありまして」
「そう、聞かない方がいいみたいね。気にしないから仲良くしてくださいね」

「水野さんはお父さんと一緒に働かれていたのですよね?」
美咲は尋ねた。
「ええ、そうよ。上司だったの。お母さんも同じだったのよ。智子さんだったわね、ゴメンなさい」
「いいえ、お母さんで構いません。母だと思っていますから」
「偉いのね、美咲さんは・・・お父さんも嬉しいですね。みんな仲がいいみたいで、本当に羨ましい・・・」