愛されたい 最終章 家族
「イヤ・・・そんなこと言えない」
「可愛いね・・・ずっとそうであって欲しいね」
「楠本はそのことでコンプレックスがあったから、私が昔の彼と比べているって思ったのね?」
「多分ね・・・自分の事バカにされていたんじゃないかと、悩んだんじゃないのかな」
「そんなことで・・・離婚するの?」
「耐えられなかったんだろうね。今は医学が発達しているから自信がつくように整形すればよかったのに」
「本当にそんなこと思っているの?あなたがそうだったら、するの?」
「智子を悦ばせるためなら、するよ。ずっと好きでいてもらいたいからね」
「やっぱり・・・好きという思いがなかったのよ。身体のことはそれを理由にしているだけだと思うな。何か文句をつける言い訳が欲しかったのよ、きっと」
「そうかも知れないと思うけど、ひょっとして好きな人がいたんじゃないの?」
「浮気していたということ?まさか・・・考えなかったわ」
智子は横井と話していて、ひょっとしてそうなのかも知れないと考えるようになった。
少し遅くなってしまった。二人は智子の家に帰ってきた。
「遅くなってゴメンなさい」
「お母さん・・・楽しかった?」有里はニコニコしながらそう聞いた。
智子はちょっと思い出して恥ずかしくなったのか顔が赤くなっていた。
「母さん、顔が赤くなってるぞ!もう・・・しょうがないなあ、子供の前で解るようなことして」
「高志くん、そんな事言っちゃ可哀そうだよ」横井はフォローした。
「いいんだよ。俺やお姉ちゃんは、母さんが横井さんと仲良くしていることが嬉しいからね」
「高志・・・ありがとう。留守の間三人で何話していたの?」
「うん、新しい家のことで、どこに部屋を取るか話してたよ」
「どう決めたの?」
「ああ、二階の三部屋をそれぞれが使って、下の部屋に横井さんと母さんってなったよ」
「そう。美咲ちゃんもそれでいいの?」
「はい、それでいいです」
「あなたたちがそう言うのなら、そうしましょう。自分の部屋をどこにするのか決めて要る物書き出して頂戴ね。持ってゆくものは引越し屋さんに頼まないといけないから」
「うん、早めに決めるよ。家具とかどうするの?」
「そうね。綺麗なお家だし、洋風だから持ってゆけないものもあるわね。贅沢するって叱られそうだけど、電化製品は新しくするわ。自分の部屋で要る物だけ持っていって。後は日曜日にでもデパートに行って選びましょう」
智子と横井は子供たちと5人で週末にデパートに出掛けた。
一通りの家具やテーブルなどを決めて、電気店で照明も合わせて選んだ。全てが搬入されてあとは入るだけになった家を見て、「新しく生活がスタートするんだ」と幸せに感じた。大好きな人と子供が一人増えて智子は忙しくなっても充実した毎日を送れていた。年末になった29日に伸一からメールが来た。
「元気にしているか?話したいことがあるから時間を作ってくれ」と書いてあった。
横井と子供たちに伸一からのメールを見せて、「会ってくるから」と午後から智子は家を出た。待ち合わせした喫茶店に入ると伸一は先に来て座っていた。
「おう、呼び出して悪かったな。子供たちは元気か?」
「はい、元気ですよ。お正月はあなたの実家に行くようにさせますから待っていて下さい」
「ありがとう。両親も喜ぶよ」
「お話って何ですか?」
「おまえ、どうした?再婚しないのか」
「言ってなかったわね・・・ゴメンなさい。再婚はしないけど、新しく一緒に暮らすことにしたの」
「誰と?」
「前の会社に勤めていたときの上司の方」
「知らなかった・・・不倫してたのか?」
「あなたが離婚の話をしてからよ。言い訳になるかも知れないけど」
「ふ〜ん、やっぱりお前はそういう女だったんだな。まあいいけど、離婚したんだから。それよりな、俺再婚するんだ。話しておこうと思って」
「あなたこそ不倫していたんじゃないの?」
「同じようなものだろう。もう言うなよ。それでな、お金が必要になったから今の家売りたいんだけどその事相談しようと思ったんだ」
「いいですよ。もう引越ししましたから、空き家になっています」
「どこに引越ししたんだ?」
「滝の水です」
「いいところだな。一戸建てか?」
「そんな感じのマンションです」
「話が早いな。約束どおり売れたら半分ずつにするからまた連絡する。幸せになれよ」
「あなたのこと教えてよ。どんな方と再婚するの?」
「同級生だよ」
「同級生?」
「同窓会で会って、いろいろ話をしてお互いに淋しいなあって仲良くなったんだ」
「へえ〜意外に積極的だったのね」
「そんな言い方するなよ。彼女に同情して・・・お前と離婚して少しは考えたんだよ」
伸一の態度が以前とは少し違っていたことに智子は驚かされた。
「その方の子供さんと一緒に暮らすの?」
「そのつもりだよ。女の子だら、難しいかも知れないけど努力するよ。有里も気をつけないと難しくなるぞ」
「そう?有里は大丈夫よ。大人だから。実家に暮らすの?」
「それも考えたんだが、相手の親が調子悪くて医者通いしているから、向こうに住もうかと思っているよ」
「大変ね。私たちの両親もだんだん年取ってゆくからこれから介護のことも考えないといけなくなるんですね」
「お前の両親はまだ元気だろう?相手の親はどうなんだ?」
「同じぐらいだからまだ大丈夫よ。そうそう、言っておかないといけなかった。私と有里、高志は間瀬の姓を使うから戸籍移すね」
「解ったよ。再婚したら有里や高志は俺の家に来れなくなってしまうだろうな・・・会いたくなったらどうすればいい?」
「あなたの子供でもあるのよ。メールか電話してお会いになったら。私は構いませんよ。会って欲しくないなんて考えたことありませんから」
「そうか、じゃあそうするよ。高志と有里の学費なんだけど、お前が再婚したのなら半分ずつにさせてくれ。俺もお金がいるからな、頼むよ」
「仕方ないわね。早く家が売れると助かりますね。いくらぐらいで売れそうなの?」
「不動産屋の話だと、土地代だけ程度だって言ってたなあ。40坪だろう・・・3500万がいいところじゃないのかな」
「坪100って聞くけど、無理なのね」
「買う時はそうなんだろうけど、売るときは相場より下がるね」
「なんだか惜しい気がするわね」
「そうだな・・・俺たちはお互いに惜しい気がしないけど家は惜しいな」
「言いますね。その通りだけど・・・」
「お前のほうが言うよ。ハハハ・・・」
「私の前で笑ったの、久しぶりよね?覚えている?」
「そうかも知れないね。智子は46だったな・・・今日久しぶりに見て若いって思うよ。恋をしてるって感じかな」
「あなたに言って頂けるなんて、何か不思議な気がする。あなたもお若いですよ」
「お世辞はいいよ。まあお互いに頑張ろう!再出発に幸あれ!だな。じゃあ帰るよ。子供たちは頼んだよ」
「はい、あなたも元気で。子供は任せてください」
ニコニコしながら伸一は店を出て行った。再婚相手とうまくいっているのだろう。お互いに幸せになれるように智子は祈った。
作品名:愛されたい 最終章 家族 作家名:てっしゅう