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てっしゅう
てっしゅう
novelistID. 29231
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レイプハンター 後編

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前田は持っていたナイフを真っ直ぐに翔子に突き刺した。話し終えて一瞬の出来事だったから避ける事が出来なかった。
「うっ!・・・やったね・・・痛い」
「血が出ているぞ!怖いだろう、死ぬことが・・・いま楽にしてやるから」
そう言うとうずくまっている翔子に再びナイフを突き刺そうとした。今度はその手をかわし後ろにのけぞるとすっと立って
足で前田のナイフを持つ手を蹴り上げた。ガチャンという窓にぶつかる音がして手を離れたナイフが床に落ちた。

「解ったでしょ。私は・・・死なないの。観念しなさい!おとなしく座りなさい」
「なんと言うことだ・・・お前は、化け物か」
「化け物に見えるの?良く見なさい。あなたがあの雨の日に強姦した翔子よ私は・・・」
「違う!お前はあの時の女じゃない・・・化け物だ」
「まあいいわ・・・警察に連絡してもいいけど、いろいろ私が調べられるのもイヤだからどうしようかな」
「俺を食うのか・・・美味くなんか無いぞ」
「誰が食うか!人間なのよ。マンションの外で雅子さんのご主人が待っている。謝る気がある?」
「許してもらえないし、そんなこと言う気もないよ。早く殺せ」
「解ったわ・・・最後に聞かせて。何故雅子さんを殺したの?」
「あいつは俺が何をしているか気付いたんだ。多分知っていることはお前をやったことだけなんだろうけど、
これからのことが面倒に思えたから殺した。可哀そうだったが、喋られては困るからな」
「身勝手なのね・・・同級生の想いまで踏みにじったのね。それも一方的に・・・やはり許せないわ」
「早く殺せ・・・何度も言わせるな」
「あなたみたいな死ぬことすら平気な人には何を言っても始まらないと思うけど、人は生きる為に生まれてくるのよ。
生かされてその役目を負わされているの。生まれながらにして生命力が弱くすぐに死んでしまう人でも目的は果たして
死んでゆくの。その定めを理由も無く無残に奪った罪は死ぬことでも償えないのよ」
「ふん、解ったような事を言いやがって・・・理屈はいいから、はやくやれ!」
「殺したりはしないわ。あなたと同じ人間になってしまうからね」
「化け物だろう?人間だなんていうなよ」
「口が減らないのね・・・そうね、可哀そうだけどここの部屋で誰にも気付かれないで死ぬのね、直ぐにじゃ無いわよ、
二、三年後に」
「どういう意味だ?」
「あなたの身体に魔法をかけるの。直ぐに解るわ私の言っている意味が」

再び翔子の体から出て行った知的生命体は前田の体の中に入ると遺伝子の一部を操作して元の翔子に帰ってきた。

「済んだわ。明日か明後日になれば気付くわ。それまでここから外に出られないようにする。鍵は24時間後に解除されるように
セットしておくから。警察に知らさないだけ慈悲だと思いなさい。変わり果てた自分を見て今までのことを心から反省するのよ。
あなたにはもうあの世で償うしか残されていないから」
「あの世?そんなものが在る訳ない。それに何を償えって言うんだ?償って許されるのか?」
「許されない」
「じゃあ、止める」
「許されなくても償うことがあなたのこれからの使命。天国へのパスポートよ」
「いらねえよ!そんなもの」
「じゃあ、地獄に落ちて化け物と暮らすのね。食われて奴隷にされて泣いても叫んでも誰にも届かない。そんな光景想像して御覧なさい。
人間の一生よりも数百倍長くそんな時間をそこで過ごすことになるのよ。それに一度死んでいるからもう死ねないし・・・ね」
「待て!うそを言うんじゃない!俺が怖がって許しを請うとでも思ってバカにしているのか!」
「嘘ついてあなたを怖がらせようなんて考えてない。この世で出来ることなんてせいぜい痛い思いをさせて殺すこと程度。
数時間か数日の苦しみを超えれば楽になってしまう。死ぬからね。地獄はそうじゃない。抜け出せない場所だから、永久に苦しみが
続くの。行きたくなかったら、生きている間に深く反省するのね。それしか残されていないから」
「バカな・・・」
「多くの人を悲しませて、苦しませて、死に追いやった罪は消せない。しかし、人として心から反省したのならせめて人として
あの世に行ける。そう言っているだけなの」
「化け物に人としてだなどと言われても信じられるか?本当の姿を見せろ。もう驚かないから」
「あなたの目に焼きついているでしょう?あの雨の日の夜のことは。せめて私に謝ってよ」
「しおらしい事を言うな。その手には乗らないぞ」
「もう、話しても無駄ね。雅子さんのご主人が待っているから戻るわ。24時間後よ開放されるのは・・・それまで
生きているのよ。解った?」
「ふん、俺の勝手だろう・・・自分で死ぬほど弱くはない」
「なら、いいけど」

翔子は外に出て浩介の待っている場所に戻ってきた。

「大丈夫でしたか。心配しておりました」
「長く待たせてすみませんでした。終わりましたので。それと残念ですが奥様の雅子さんはどうやら最悪の状況になって
いるようです。まずは警察に捜索願を出して捜査をお願いしてください」
「最悪?殺されているということですか?」
「解りません・・・その可能性はあるというだけの事しか解りません」
「そうでしたか。今から警察に向かいます」
「はい、解りました」
「あのう・・・教えてください。どういう方なのか」
「その前に前田の部屋の鍵に細工をしてきますので待っていてください」
翔子はなにやら手に持って再び前田の部屋の前に行き、鍵穴に細工をした。時計を使って作ったタイマーでドアーロックが解除
出来るように仕掛けた。

「お待たせしました」
「ありがとうございます。お話聞かせてください」
「はい、私は前田に殺されかかって命を救われました。誰にかはわかりません。そしてその結果身体の中に新しい生命が
宿ったように感じられるのです。いろんな知識もその生命のおかげです。強姦された悲しみよりもその生命力のほうが
気持ちを支配しているので苦しくはありません。これからは女性に悲しいことが起こらないように警察ではなく自分が
少しでも犯罪防止に役立つように生きてゆくつもりでおります。前田のような男を二度と誕生させてはならないと強く
感じています」
「そうでしたか・・・不思議な縁だったのですね。私も妻を失った悲しみに苛まれるだけでなく、あなたのように強い気持ちを
もって犯罪防止に尽力したいと思います。なにより被害者の心のケアーに力が貸せればと思っております。翔子さんの
勇気と信念に心打たれました。本当にありがとうございました。妻がかけたご迷惑は謝って済むものではないですが、
これからの自分の行動で償ってゆきたいと思っています。あなたも身体をご自愛されてくださいね」
「浩介さん、奥様のことはお悔やみを申し上げます。私は一度死んだ身。怖いものはありません。女性や子供が安心して
出歩ける社会を目指して出来る限りの活動をしてゆきます。あなたも無理はなさらないで下さいね」
「はい、お互いに・・・またお会いできると嬉しいのですが」
「そうですね。これも何かのご縁ですから」

翌朝目覚めて鏡を見た前田はその場に倒れこむようにしてわが身を疑ってしまった。