表と裏の狭間には 十六話―支部長就任―
「王水って………まさかあれか!?」
「そうよ。」
えげつねぇ………。
「黄色は電撃弾(エレキ)。摩擦で表面の絶縁体が溶けて、放電しながら進むわ。人間に着弾したら大騒ぎよ。電圧、電流ともにかなりの出力よ。」
「そんなの着弾したら、麻痺じゃ済まないだろ………。」
「緑色のは貫通弾(ピアス)。防弾繊維だって貫通するし、チャチな鉄板とかなら容易に貫くわ。」
「お前、それは国際法で禁止されてる弾丸だろ!?」
「だから秘密よ。金色の弾丸は飛散弾(クラスター)。いわゆる散弾よ。発砲したあと、無数の軟鉄弾に分裂するわ。」
「拳銃で撃てる散弾か………。」
「銀色の弾丸は繊維弾(アンカー)。発砲した直後、滞空弾子と前進弾子に分かれて、二つの弾子の間には強力な繊維が張られるわ。前進弾子は着弾すると、粘着剤つきのカーボン粒子で固定される。糸は1μ径で0.2tまで支えられるわ。糸の長さはおよそ20m強。ちなみに銃弾の推進力くらいの力をかけないと伸びないくらいにはしっかりしてるわ。」
「とんでもないオーバーテクノロジーじゃねぇか!」
「そして、灰色の弾丸は煙幕弾(スモーク)。発射したあと、煙幕を撒き散らして進むわ。煙幕はすぐに拡散して、それに取り込まれたら1メートル先も見えないわ。」
「そんなに濃いのか………。」
「ええ。そして、一番タチが悪いのが、猛毒弾(ポイズン)。この、瑠璃色の弾丸よ。」
「これか?」
「気をつけて。猛毒が仕込まれてるわ。これは、着弾の衝撃で弾頭が歪むと、猛毒が湧き出てくるわ。」
「猛毒?」
「ええ。即効性の神経毒よ。」
「最悪だ…………。」
神経毒で、しかも即効性ときた。
神経毒とは、神経に作用し、痛みなどは感じないが、呼吸困難や麻痺を引き起こす毒だ。
説明を聞いて、思ったことを言わせて貰おう。
いくつか例外はあるものの、総じて。
「これ、相手を生かしておくつもりないだろ。」
「ないわね。」
………あっさり肯定しやがった。
「ほら、いつまでも遊んでないで!さっさと部屋を整備するわよ。明日からここ使うんだから!」
「さて。深夜にわざわざここに来て、どうしようってんだ?」
「別にいいじゃない。明日は休みなんだし。」
「まぁ、そうだが………。」
「さて、早速シフト弄るわよ!」
あたしは、支部長専用のパソコンを起動させ、関東支部関連のデータにアクセスする。
このパソコンでは、関東支部のあらゆるデータを閲覧でき、更に関東支部内の役職や配置などを自由に変更することができる。
煌たちがげんなりしているが、無視。
耀が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、パソコンを弄る。
「で?結局何をしようってんだ?」
「その前に、部屋を調べて。盗聴器とか、色々仕掛けられていないか、徹底的に。」
「あ、ああ………。よし、手伝え。」
煌が指揮を執り、他の四人が手分けして盗聴器などを探し始める。
あたしはあたしで、机周りを調べてから、パソコンのウイルスチェックを始める。
このパソコンが何らかのウイルスに感染していて、あたしの計画が漏れたら一大事だ。
三十分ほどしてから、煌が『終わったぞ』と声をかけてきた。
「そう。ご苦労様。どうだった?」
「二つだ。」
「チッ………やっぱりね。前支部長も敵か………。」
「どういうことだ?」
「とりあえず盗聴器を潰しなさい。」
「は?上に報告しなくていいのか?潰したらまずいだろ。」
「上に上げても無駄よ。これは、上にも食い込んでるだろうから揉み消されるわ。それより、潰しておかないとこれから話すことが漏れるかもしれないわ。」
「そうか………。」
煌が、躊躇いながらも盗聴器を握り潰す。
さて。
今日の本題はこれからだ。
「あんたたち、これから話す事には守秘義務を課すわ。」
「言われなくても外には漏らさんさ。」
「紫苑にも、よ。」
「はぁ?」
全員が怪訝そうな顔をする。
「どういうことっすか?」
「あたしたちはまだいい。けど紫苑は、まだ素人よ。彼が狙われたら、あたしたちでは守りきれない。」
「だから、お姉様は何の話を――」
「あんたたち、桜沢一派の事はどれだけ知ってる?」
「……桜沢一派。最近アーク内部で台頭してきている勢力ですね。」
「そうよ。束ね上げているのは北海道支部道北代表、桜沢美雪。」
「ほう。もうリーダーまで突き止めたのか。それは流石だが、しかしその桜沢一派がどうしたんだ?」
「桜沢一派は、元々北海道支部を中心に勢力を展開していたんだけどね。最近南下してきているのよ。」
「南下?」
「発端は北海道道北、次に東北支部、次に関東支部、中部支部、次に近畿、更に中国、四国、果ては九州支部。現在では全国規模の勢力を持っているわ。あまり知られてはいないけどね。ここまで調べているのはあたしくらいのものよ。挙句の果てには本部にも人員が食い込んでいるようだし。」
「そこまでか………。だが、それに何の問題が?」
「桜沢一派は、若い連中を中心に広がっているのよ。20代前半以前の世代よ。つまり最近入隊した連中。最近アーク内部で、若い世代の思想が問題視されてたのは知ってる?」
「ああ。確か、古参メンバーのように、純粋に平和を願う者や、あるいは復讐のような、『特定の目的』を持たないで、遊び半分のような軽い気持ちで入隊してきた連中のことだろ?」
「そうよ。」
そう、アークにはそういう人間もいるのだ。
日本の平和に貢献したい者や、親や大切な人を殺された恨みから復讐を成そうとする者のように、強い意思を持って入隊する者もいる。
だけどその一方で、『人を合法(実際は違うけど)的に殺せるから』『暇だから』『退屈だから』『武器を持ちたいから』『友達が入隊したから』といった風に、生半可な気持ちで入隊してくる人間もいる。
最近、そういった軽い連中が増えてきているのが問題視されている。
「桜沢一派は、そういった連中を取り込んでいるのよ。」
「だから、それに何の問題が?」
「そういう『軽い連中』は、派手なものが好きなのよ。」
「派手なもの………だと?」
「ええ。例えば――」
「――反乱とか。」
「反乱!?」
あたしの発したその単語に、煌たちが驚く。
「おい、どういうことだ!」
「あたしもよく分からない。けど、反乱の可能性があるのよ。」
「……………根拠は?」
「二月、耀が誘拐されたのを覚えてる?」
あたしの質問に、輝が反応する。
無理もないわね。
「あの時、連中が耀をうちの隊員だって特定できたのはおかしいって話をしたわね?」
「ああ………。」
抜群の秘匿性を持つうちの組織のメンバーを特定できるなんて、一暴力団程度には無理なのだ。
「それに、あの時のタイミングがよすぎる爆発も、おかしいって話したわね。」
「ああ。」
あの時、うちの班を一つ壊滅させ、敵の組員を全員吹き飛ばした爆発。あれも変だった。
「調べてみたのよ。このパソコンでも調べてみた。」
このパソコンで調べるということは、関東支部のあらゆるメンバーのあらゆるデータを整理するということだ。
「その結果、漏洩の犯人と、細工の犯人が分かったわ。」
「誰っすか。」
「関東支部の一部のメンバーよ。」
作品名:表と裏の狭間には 十六話―支部長就任― 作家名:零崎