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表と裏の狭間には 十六話―支部長就任―

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「だから誰っすか!あの時もしかしたら耀は死んでたかもしれないんすよ!?殺してやる!耀を危険に晒すようなヤツ、僕が自ら殺してやる!!」
「落ち着きなさい。個人の手に負えるレベルじゃないわ。組織の半分が敵なのよ。」
「半………分………だと?」
輝だけじゃない。他の全員が息を呑む。
当然だ。
我がアークは、非合法組織としては日本最大の規模を誇る。
いかなる組織――マフィア、暴力団をも超え、人員の数だけなら日本最強の武装集団である警視庁公安部零課だって足元にも及ばない。
その組織の、半分が敵なのだ。
というか、アークの正確な人数はあたしも把握していないけど、かなりの人数がいるだろう。
下手をすれば10万人規模かもしれない。
もしかしたら百万弱いるかも。
そんな一大組織の半分が敵だというのだ。
「桜沢一派の目的は今は不明。反乱を起こしてどうしようというのかも分からないわ。でも、反乱を起こそうとしているのはほぼ確実よ。この前の一件もそうだけど、うちの情報が少しずつ漏れているわ。」
「……漏れている、とは?」
「蓮華に、蓮華を助けたのが紫苑だってばれたわ。」
『はぁ!?』
普段冷静な煌までもがパニックに陥った。
「どういうことだ!?あの時は紫苑と真壁は完全武装していて、しかもほとんど喋っていなかったんだろ!?それでどうして正体が割れる!?そもそもそんなこと有り得るのか!?」
「事実よ。」
あたしは淡々と事実を告げる。
「この前、紫苑が引っ越してきて二日後の日ね。あたしがバーに行こうと思って、居間に向かったのよ。そしたら、レンと紫苑が居間にいてね。レンが………多分独り言だけど、そう言っていたのよ。そして、この前、時期を見てそのことを聞いてみたわ。そしたら、とんでもないことが分かったのよ。」
あたしは、ある調査資料を放る。
「これは………。」
それは、紫苑と蓮華のクラスメイトで、アークの構成員である佐藤(さとう)美代(みよ)の調査資料だ。
人間関係と、その更に向こうの人間関係、そしてそこまで含めた全ての関係者の所属、思想傾向など、詳細なデータが書いてある。
「そこに記されている通り、そいつの関係者は桜沢一派ばかりよ。」
「こいつが、紫苑の情報を漏らしたと?」
「間違いないわ。」
あたしは断言する。
断言できるだけの材料が、あった。
この、佐藤美代というヤツは、二月の事件の時の容疑者リストにも名前が挙がっていた。
「で?敵とやらがいるとして。それは個人の手に負えるものじゃない。というか、ゆりの言うとおりに本部にまで食い込んでいるとなれば、最早対応なんて出来ないだろ。どうするつもりだ?」
「最低でも、反乱の際に関東支部が受けるダメージを最低限に抑えるわ。」
「どうやるんだ?」
「そのための支部長の椅子よ。」
実を言えば、この支部長は真っ当な手段で拝命したわけではない。
あたしの『個人的な友達』の力を借りたのだ。組織を守るために。なにより。
あたしの、大事な家族を守るために。
「支部長の立場を利用して、班の構成を調整するわ。桜沢一派の連中を固めて、イザというときにアカウントを一発停止できるように細工する。だから、あんたたちにはその手伝いをして欲しいのよ。」
「分かった。」
あれ?即答?
「即答でいいの?」
「構わん。お前が決めたことなら、従うさ。」
「耀に危害を加えるような集団は、僕が潰してやるっす。」
「兄様に協力するって、私は決めてるの。」
「……ぼくにだって、目的はあるんですよ。」
「わっちもね。この場所は結構気に入ってるんだよ。」
頼もしい、と思った。
「じゃ、手始めに、明日から情報を整理したうえで、カードを一時回収して、細工を行うわ。明日はとりあえず情報収集よ。関東支部の桜沢一派を徹底的に洗い出しなさい。」
『おう!』
さて、忙しくなる。
だけど、これを終えれば、現状よりはマシになるだろう。
最近鳴りを潜めている、霧崎組の動向も気になる。
霧崎組………聖邪鬼組の真の姿。
これも、あたし以外で知っている者は、それこそ霧崎組の関係者だけだろう。
霧崎平志。
あいつも、もうじき出所するはずだ。
今度こそ、この手で。
殺してやる。
あたしの大願成就まで、あと一年と少し。
やってやる。こればっかりは。

「気付かれた、ですって?」
同時刻。
北海道、その道北。
冬は深い雪に閉ざされる大地も、夏ともなれば雪だって姿を消す。
しかし、未だに肌寒いこの地。
その、とあるビルの一室。
女――桜沢美雪は、そう言った。
「はっ。関東支部長に就任した、楓ゆり以下、柊紫苑を除いた六名が気付いた模様です。対策を練り始めたようですが、いかが致しますか?」
「…………………。」
報告を聞いた美雪は、しばし黙り。
「放っておきなさい。」
と、言った。
「よろしいのですか?関東支部への細工は、難しくなりますが。また、摘発された場合、我々の処遇がどうなるかも………。」
「問題ないわ。今や我々の勢力は組織の二分の一に及んでいる。大抵のことなら握りつぶせるわ。ですから、無理に動く必要はないのですわ。わたくしたちに負けはありません。」
「はっ。では、その旨、全会員に伝えます。それと、楓ゆりの関東支部長就任に関する調査資料です。」
男は、美雪に書類を渡す。
「ふむ………。」
美雪は、それに目を通す。
「なるほどね。やはりそうなのね。警視総監に、内閣国防相、ね。ちょっと、公安零課ってどういうことよ。はぁ……。彼女の人徳の噂も、本当みたいね。こればかりはどうしようもないか………。」
彼女は資料を読み終えると、それに火をつけて、窓から海に投げ捨てる。
「ご苦労様。もう休んでいいわ。」
「はっ。」
男は敬礼してから、部屋を出て行った。
「あははは………あははははははは!」
男が出て行ってしばらくしてから、美雪は笑い始めた。
高笑いはどんどん大きくなる。
「素晴らしい………素晴らしいわ!全てわたくしの計画通り!お父様が出ていらっしゃるまであと一年と少し!計画に狂いはない!成功させて見せるわ!そして、堕落したこの国に、真の平和を、わたくしたちがもたらす!皮肉にも反社会勢力の手でね!おーっほっほっほっほっほっほ!あーはっはっはっはっはっはっは!!あーははははははは!!」
美雪の冷たい笑い声が、深夜の北の大地を駆け抜けていった。

続く