デコトラに宇宙人
「へぇ~!これがこの星の運搬車ですかぁ・・・随分いろいろな物がありますねぇ」
手を額に当てキョロキョロと珍しそうにトラックの中を見回す少女。
「まぁな、この中で生活してるようなもんだから・・・ってお前誰だ!?」
「わぁ!驚いた~・・・急に大きな声ださないでくださいよ、私ビックリしちゃいます」
「ビックリしたのはこっちだ!いきなり助手席に現れやがって、幽霊かお前は!?」
「幽霊???」
少女は少しの間顔をかしげてから胸元から取り出した薄いカード型の端末にその言葉を入力する。そして、男が言った言葉を理解して反論する。
「私、死んでなんかいません!この通り足だってありますし!!!」
そういいながら少女は足を見せ付ける。
その足は色白ですらりとして美しく、思わず釘付けになってしまう。
当然ハンドルはお留守。
「あ!前見ないと駄目ですよ!!!・・・ホント危なっかしいんだから」
少女の注意でまたもや命を救われた男は胸を撫で下ろす。
心の中で反省しつつも男は半分は少女の美しい足に責任があると思ってしまう。
「全く、同業者としてなってません!運転中は緊張感を持たないと駄目ですよ」
男のそんな思いも知らずに目をつぶり人差し指を立て説教をする少女。
偉そうにはしているがそんな仕草は何処か可愛らしく男は笑ってしまう。
「あ~!馬鹿にしてますね。私これでも運送業界長いんですから注意は聞くべきです!」
男はまた笑ってしまいそうになったが、それは心の中にとどめ「ああ、気をつけるよ」とぶっきらぼうに返事をした。
その言葉を聞き「わかれば良いんです!」と得意げに胸をはる少女。
何だか間抜けなやり取りを経て少し落着いてきた男は少女に改めて質問する。
「なぁ、あんた、本当に何処から来たんだ?」
「ああ、そういえば言ってませんでしたね・・・失礼しました」
「実は、私宇宙から来ました」
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
またも平静さを失う男。
しかし、それを少女が注意する。
「まえみてくださーい!」
「お、おっとあぶねぇ・・・悪いな」
少女の注意で再びお留守になったハンドルを立て直す。
「いや、でも、ビックリしてよ・・・」と男は頭をかく。
「そりゃそうですね」
「失礼しました」と頭を下げる少女。
「しっかし、まぁ宇宙とはなぁ・・・随分遠いとこから来たもんだ」
「いえいえ、そんな遠くもないですよ」
「これを使えば一瞬です」とブレスレットを見せる少女。
「実はですね、仕事中に暇で暇でチャンネルをザッピングしてたらちょうどあなたの声が聞こえたんですよ」
「ああ、さっきのあれか」
「ええ、それで困ってるようでしたので、船を自動運転モードに切り替えてやってきちゃいました」
「ちょっとした休憩って所ですかね」と少女は笑う。
「なるほどなぁ・・・しかし、あんた仕事中なのに平気なのか?」
「大丈夫ですよ、基本的に私達は機械に誤作動がないかどうか見張ってるだけですから」
「つってもよ、いない間になんかあったらやばいだろ?」
「まあ、事故があったら通信が入るのでこれを使って船に戻れば良いだけですし」
そういって少女は男に端末とブレスレットを見せた。
「全く、便利なもんだ」男はそう呟いてしげしげと端末とブレスレットを見つめた。
「でも、その代わり暇なんですよ、だからこうしてついつい寄り道しちゃうんですよね」
「ああ、それでわざわざ来てくれたってわけか」
「そうなんです、私色んな星に興味があって、そこに住んでる人たちにも興味があって、それで星間運送業界に入ったんです」
「星間運送業界?・・・ってなんだ?」
「ああ、星と星とをつなぐ運送屋さんのことです」
それを聞いて男は驚く。
星と星とはスケールがでかい。
自分は指定された地域を回るだけで精一杯なのに。
「はぁ~・・・そりゃすげぇな、でも女の子には結構しんどいだろ?この業界」
「ええ、だから鍛えに鍛えました」とちからこぶを作る仕草をする少女。
ちなみに、男から見ると腕立て伏せの一回もできないような細腕に見えた。
だがあえてそのことには触れず男は言う。
「なるほどな、立派だなお前」
「いやいや~それほどでも!」とてれる少女。
男はそんな少女を見ながら眠気覚ましの唐辛子せんべいを齧る。
「なんですか、それ?」
「ああ、こりゃ唐辛子せんべいつってな、この星のたべもんだ」
男がそう言うと物珍しそうに唐辛子せんべいを眺め始める少女。
その姿を見た男にちょっとしたイタズラ心が芽生え始める。
「おい、ちょっとこれ食べてみないか?」
「ええ!!!いいんですか!?」
「おう、実はなこいつこの星の名物なんだよ」
「へぇ~!ぜひ食べてみたいです!!!いや食べさせてくださいっ!!!!!」
「いいぜ、遠慮しないで何枚でも食べろよ」と男はにやけながら言う。
ちなみに、唐辛子煎餅とは文字通り煎餅の表面に唐辛子がまぶしてある食べ物で物凄く辛い。常人なら一枚と持たずに根を上げる。
だが、少女は男の期待を裏切り「いただきまーす!!!」という言葉と共にいきなりバリバリと唐辛子煎餅を食べ始めた。その勢いはとまらず袋の中に入っていた煎餅をあっという間に食べきってしまう少女。
「これ、すっごく美味しいですね!!!たまらないです!!!!!」
「今まで食べた物の中でもベスト10にはいるかも」と呟きながら袋の中の唐辛子までなめ始める少女を驚きの表情で見る男。
自分のたくらみが見事外れた事など忘れ呆然とした表情で少女を見詰める。
それに対し口の周りを真っ赤にして「ごちそうさまでしたー!!!」と大声で叫ぶ少女。
「ほんっと美味しかったです!ありがとうございました!!!」とらんらんとした瞳でこちらを見てくる少女に対し「あ、ああ、口にあってよかったよ・・・」としか言う事の出来ない男。
「こんなに美味しい物ご馳走してもらったんじゃおれいしなきゃですね」
「あ、ああ、まあ、気にすんなよ」
「いえいえ!駄目です!!!お礼はきっちりしないと!!!!!」
少女は何故か正座になり姿勢を正してこちらを見てくる。
「そういえば、さっきの通信で何か困った事があるとおっしゃられてたような・・・」
「・・・ああ、あれな、このままだと時間内に目的地まで間に合いそうにねーんだ」
「そうですか、ではこれを使いましょう!」とさっきのブレスレットをいじくり始める少女。
「ちなみに、場所は何処ですか?」
男が住所を伝えると少女が端末にその住所を入力し端末をブレスレットに接続する。
「では、いきますよー!!!」
二人の乗るデコトラが光に包み込まれ始まる。
「いっけー!」
そんな少女の掛け声と共にトラックは夜の高速道路から忽然と姿を消した。
「起きてください、起きてください」
少女のそんな声と共に体がゆすられ男が「・・・う~ん」という言葉と共に目を覚ますとそこはなんと男が目指していた目的地だった。
「・・・え?ここって、まさか!?」
「そう、あなたが目指してた目的地ですよ!」