終わりのない物語
はつかさんはお盆というイベントを終わらせる役目があった。
ルークとティアは彼らなりに異世界でイベントをクリアしてきた。
皆が黙って僕の方を見つめる。
「ただ、僕だけが脇役にも関らず物語の影響を受けていないんだ」
お盆が終わったというのに目覚めない人々。
降り続く真夏の雪。
「本来ならば僕も意識を失ったままのはずなんだ・・・だけどこうして目覚めている」
「だからなんだってんだ?」ルークがじれったそうに促す。
「つまり、僕だけがこの世界でイレギュラーなんだ」
自分でも何を言っているのかわからなかったが思いついた事を説明するので精一杯だった。
「・・・リョウ君は普通じゃないって事?」
はつかさんが不思議そうな顔で尋ねてくる。
「うん、この停止した世界の中で僕一人だけが役割を終えていないっていうことになる」
この登場人物たちの中でただ一人何もせず、けれど物語の影響は受けないで今こうして鍵となる人物達と話す事が出来ている僕。それはかなり異質で歪な存在だ。
「・・・だから物語は進まないんだ」僕はそう呟く。
「・・・よくはわかんねーが、ティアが目覚めねーのもお前のせいってことになるのか?」
「うん・・・多分、そうだと思う」
「てめぇ、何とかしろよ!!!俺はこいつと旅がしたいんだ!!!元の世界に戻ってな」
僕の胸倉を掴みながら怒鳴りつけるルーク。
その力は物凄く僕の足は地面から随分と浮いている。
「ちょっと!乱暴はやめなよ!!!喧嘩したって何も始まらないって・・・」
はつかさんが僕とルークの間に割ってはいる。
ようやく僕を離すルーク。僕は落下し床にしりもちをつきながら咳き込む。
「でもよぉ・・・だからってこのままじっとしてられねぇじゃねーか!!!」
「・・・だから、僕が物語を修正すれば良い・・・と思う」
僕は自分の都合の良いように物語を捻じ曲げた。
そのせいで二つの世界は一点で交わったまま停止した。
それを元に戻すには物語を修正しなければならない。
つまり、それがこの世界での僕の役割だ。
「だから、僕は書こうと思う・・・いや、書く・・・世界を元に戻すためにも」
「へっ!書くだけで世界が変わるなら苦労しねぇよ!!!勝手にしろ・・・」
そういい捨てるとルークはリビングから出て行ってしまった。
怒っているのもあるのだろうが、恐らくティアが心配なのだろう。
「リョウ君・・・」
はつかさんが心配そうに僕に声をかける。
「大丈夫、何とかなると思うよ・・・」
停止してしまった物語を進める。
正直自分で言葉にしたことだが自信はなかった。
自分が書いた物語が具現化した事すら完全には受け入れられて無いのだから。
それでも書かなければいけない。
それから僕は自室にこもった。
自分が作った物語・・・いや、捻じ曲げてしまった世界をどう修正するか。
それを考えるために。
どうすれば僕とはつかさんは普通に学園生活を送れたのか?
どうすればルークとティアは旅を続けられたのか?
しかしいくら考えてもそんなまともな物語は思い浮かばない。
そもそも逃避から生まれた物語なのだ。
現実など書きたくない。
「いっその事こんな話なかったことにしてしまえばいいのかも・・・」
僕はキーボードのデリートキーを押そうとした。
その時いつの間にか後ろに立っていたはつかさんに腕をつかまれた。
そして、頬をはられた。一瞬、頭の中が真っ白になった。
はつかさんは「・・・ごめん」と言い僕の正面に座った。
「私思うんだ・・・正直さ、毎年お盆にあんな目にあうなんて最悪だと思う」
「・・・うん」
「けどね、例えあれが作り物だったとしても今年のお盆は凄く楽しかった」
「・・・」
「だからね、あれをなかったことにされたらそっちの方が最悪」
「・・・ごめん」
「ルークとティアに・・・リョウ君に見せてもらった物語以前に何があったかはわからないけれどそれでもあの二人にとってリョウ君の書いた物語は・・・あの経験はかけがえの無いものだと思う」
「・・・」
「だから、私は君に・・・リョウ君には物語を書いて欲しいと思うんだ」
でもあまり無茶苦茶な事されたらいやだよ?そういいながらはつかさんは笑った。
そして僕の部屋から出て行った。残された僕は天井を見つめる。
この上には僕が書いた真夏の雪が降っているのだろうか?
そんなことを考えていたらいつの間にか自然と指が動いていた。
「・・・書きたかったんだ、僕」
そんな簡単なことに今更ながらに気づき少し恥ずかしくなる。
そして僕はモニタに向かう。
世界のためでなく自分の為の物語を書くために。
もう一度世界と向き合う。
そして僕はつむいでいく。
終わりのない物語を。