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天国へのパズル 閑話休題 - tempo:adagio -

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「そりゃもう、人づてに面白い話聞いてー、気になったからー。ねー。」
「ねー。だってあの人達、ジョージのメンズ達を使い物にならなくしちゃったもん。」
「ねー。」

 阿呆か。声を揃える二人に心の中で毒づく。
 基本的に、ウォルトは我侭な人間が大嫌いだ。適当な勢いで自分の好き勝手に振る舞い、何でも自分の思い通りだと思っている。彼女が唆し、彼が無茶苦茶な営業をやった所為で、上層がHollyhockに依頼したことにまだ気が付いていない。慮ったお仕置きだと気づかず、己が立場も考えることを止め、享楽に身を委ねる快楽主義者だ。
 目の前の二人はその大嫌いなタイプで、無駄に喋る口から殴って叩き壊したくなった。が、そんな事をしても疲れるのは自分なので、何時もの調子でまくし立てていく。

「それについて知ってるメンバーが今はいません。俺は何も知りません。」
「で、あの男に押し付ける子ってどんな感じよ。お前は会ったんだろ。」
「だから知りませんよ。会ってもいませんし。」
「えー、あいつらがー、イデアのガキとっ捕まえてー、色々やっちゃうんだろー?」
「もー、やだー。私はやんないわよー。」

 お互いに耳打ちしながら笑い合う。カップルのじゃれ合いは、何方かが嫌いならば全てが見苦しい。
 どうせここに立ち寄ったのはホテルに行く前の暇つぶしだろう。ウォルトは蹴り倒す勢いで追い立てた。

「それ、誰かの噂と混ざってます。とりあえず今日は俺しかいないので、話は店を開けた時にお願いします。」
「はぁ?いつ開けるんだよ。」
「お父様の上にいらっしゃる方にでも直接聞いてください。」
「ちっ……後で覚えてろよ。」
「ええ、ではお父様によろしく。」

 親の見張りが無ければ何も出来ない。首輪を付けられている事に気づかない男を追いたて、上層階のプライベートスペースに戻ると、クローディアは昼食のカスクートとヴィシソワーズをたいらげ、暢気に紅茶を飲んでいた。
 更にデザートのココットを見つけたらしく、かなりご機嫌だ。ココットの中はヨーグルトのプリンが入っている。
 それを知っているウォルトは、納戸からアップルソースを出した。クローディアは目を輝かせ、子供のように手を叩いた。どうやらオリバーの作ったこれが、今日の流行だったらしい。

「やっぱりウォルトは探し物の天才だな。もうちょっと早く来てくれたら良かったのに。」
「貴方の部屋に俺は入室禁止でしょう?」
「今日ばかりは許す。久々に写真以外の服が見たかったんだもん。」

 クローディアはにこにこ笑いながら出てきたソース瓶の蓋をひねる。
 何だかんだ思ったところで、ウォルトはクローディアの事が嫌いにはなれなかった。
 基本、彼女が外の人間に会うのは変装している時のみで、それはジンやアルトにも共通している。
 真実を知っても逃げ出さなかったラルフ達だけが、彼女の中心にいた。見知った人間以外には、自分を偽らないと話もできない。その癖、自分の中心にいる人間が傷つけられるような事があれば、相手の息を止めるまで追い詰める。たとえそれが自分の命を削る事だとしても。
 それは、クローディアの出自以上に彼女の心の問題だ。
 ラルフと同じように、彼女が抱える闇を取り払う。それが彼女に己が安全を知らしめる事だと、皆が信じていた。
 クローディアは自力で蓋を開けるのは無理だと悟り、ウォルトにソースの瓶を渡した。

「あいつらちゃんと帰った?」
「帰りましたよ。あの人たちが苦手なら、あの子を引き取るなんてしなきゃいいのに。Shrineの共有切れば、こっちのものになるんでしょう?」
「そうだけどさ……色の全く無い男が、女の子に心を許したのよ。ちょっとした変化は面白いし、皆で楽しまなきゃ損だからね。」
「それで、あの人にイデアの子を預けるんですか。」
「自由になりたいと吼えて逃げ出した。その癖、未だに躾けられた飼い犬の癖が抜けきらない。懐いてくる馬鹿がいれば、馬鹿がうつって跳べるでしょうよ。変な跳び方しか見せない奴に、本音なんて出せやしないわ。」

 フタをあけてもらうと、プリンにアップルソースを盛る。あんぐりと大きな口を開き、至福の笑みで放り込んだ。