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天国へのパズル 閑話休題 - tempo:adagio -

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 外見を褒められるのは一緒にいたヒナの方で、ヨリはその褒められているヒナから、感謝されるか怒られた事しか記憶にない。さらに昔は弟とそっくりだと言われたぐらいで、うろ覚えでも思い出せない。覚えていないだけで褒められた事はある筈だ。しかし、そう言い切られる程に何かが欠けている現実に驚いて、ぽかんと口を空けてしまった。

「やっぱりね。クローディアの予想通り。面白いほど馬鹿で子供だわ。」

 アンジェラは吹き出し、ヨリのあたまをわしわしと撫でて笑った。
 妙に既視感を感じたが、それが金髪の男だという事に気が付いて、彼女も彼と同種の人間だと思った。悪い人ではないが、怖い。変化が激しくて大変だ。そんな事を思っているうちに、腕を引かれて路面電車と車が行き交う交差点までやってきた。アンジェラは、相変わらず訝しむ面をしたヨリを定刻発車の電車に押し込む。
 循環系統で混み合う車内の隅で、唇を噛み締めるヨリを、アンジェラは不思議に思った。
 イデアのナンバリングが入っていると言っても、状態は安定していて普通の女の子と変わらない。ヘブンズドアにいるSM系のコールガールの方がよっぽど病人面だ。
 そんなヨリが派手に抵抗する理由は、2区のセレクトショップ地域に差し掛かった時に分かった。

「何で褒めてもらわなきゃいけないの?別にメイのくれた服、悪くない。だから、ジンは文句を言わないと思う。」

 真剣な顔で訴えるヨリの視線の先には、イデアの青年を連れた男が、徒党を組んで歩いている。アンジェラは頭を抱えた。
 車でセレクトショップに乗り付けて、買い物をした帰りなのだろう。虚ろな目で中央を歩く男に寄り添う彼の姿は、均整がとれて美しいものだった。服装も小奇麗で、ベーシックなスーツでまとめている。彼の体にあったシンプルなデザインだ。
 連れて歩く下僕の衣装は、主人のステータスを表す。成金にありがちなパターンで、見た目のいいイデアの保護者になる慈善事業だ。金を積んで引き取られたイデアの扱いは、保護者の趣味嗜好に反映され、彼らの意思はどこにもない。
 アンジェラは彼らの様な下品な人間をヘブンズドアの中で見慣れているものの、慈善を語っているであろう男の顔を見て顔をしかめた。
 脂ぎった顔、たるんだ首元。まさに自制を知らぬ成り上がりの証拠で、あの下品な男と自分が同列にされたのかと思い怒りを覚えたが、うら若い彼女に近寄ってきた人間はその類のみだろう。アンジェラは笑顔でヨリに近づく。

「別にあんたたちがアレと同じになれとは言ってない。でも、見た目って大事よ。今の格好なら埃と泥にまみれても問題ない。けど、それならあんたもジンも楽しくないじゃない。」
「楽しいとか、いらない。知らなくていい。」

 無表情でいうヨリの言葉に、アンジェラは拒む理由を悟った。
 昨日今日の話ではなく、彼女は人間らしいという感覚すらも失う場所にいた。そして、その輪の中から抜け出せずにいる。
 頑なになるヨリを抱きしめ、傷んでささくれ立った髪を撫でた。

「知らないのなら教えてあげる。女の子は誰でも可愛いの。可愛くて綺麗。早いうちからひねくれたり、意固地にならなきゃね。まずは褒めてもらう事が嬉しいって覚えなさい。」