住めば都 ~整形外科病棟~
手術はこれで二回目だ。
一回目は末っ子を産むときだった。
末っ子は前置胎盤、つまり異常妊娠だったのだ。
予定日の2週間前に破水と同時に異常な量の出血をみた。
慌てて病院に連絡し、緊急手術となったのだ。
緊急だったから、手術室のナースが説明……なんてなかったし、麻酔の説明、深呼吸の練習もなかった。
ただ、麻酔って、言葉が聞き取れるんだと手術中に思った。
「はい、生まれましたよ。女の子ですよ」
と胸の上に乗せてくれた。あ〜良かった。
オギャ〜と泣くその赤ん坊を見て、
「頭もまん丸できれいな形やわ。お顔も可愛い。あ〜良かった」
と安心して、うつらうつらした。
「いかん、血圧が下がってる……」
「血圧60です」
「血圧50です!!」
誰かの声がぼや〜と聞こえる……。
「急いで!!」
これはドクターの声のようだ。
(あ〜、このまま私は死ぬのか…………)などと頭の隅っこでそんなことを思っていた。
そのあとは眠ってしまったのか、その後のことは全く覚えていない。
覚えているのは、麻酔が覚めかけたときのあの苦しさ。
胃がグルグルえぐられているようで、吐きそうなのに、何にも出てこない気持ち悪さ。
最近読んだ本の中に、同じように前置胎盤の患者が赤ちゃんを取り出したあと、胎盤剥離がうまくいかなくて出血多量で死亡した例が書いてあった。
そんな危険な手術だったんだ。赤ちゃんも自分も無事でよかった。改めて今はもう閉鎖された林病院の医師たちに感謝した。
しかし、麻酔は嫌だ。
24年間封印していたあの記憶がよみがえってきた。
麻酔……全身麻酔……あの苦しい思いはもう二度としたくない。
作品名:住めば都 ~整形外科病棟~ 作家名:ねむり姫