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遠い記憶

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 駅を背に市役所通りを歩いて行くと、川崎競輪場と川崎球場があり、その近くに池があった。その池はなぜか熱い。手を入れると、手の周りに蝋が付着する。それをはがすことが好きだった。はがすと手がきれいになった。
 川崎球場から、横浜の方向に歩いて行くと、私の家があり、川崎市立田島小学校がある。更にどんどん歩いて行くと、市電通りだ。そこは駅からは遠いところで、その広い通りを超えて行くと、浜川崎線の線路があり、その辺りには水田があった。そこに真っ赤なザリガニが住んでいた。それを取りに行ったのがいつで、誰と一緒だったのか、記憶にない。
 父は町工場で旋盤工をしていた。自転車でのんびりと出かけ、のんびりと帰って来た。父は遅く帰って来ることが多かった。パチンコ屋で閉店まで遊んで帰って来たのだろう。ときどき、当時高級品だったバナナを父はくれた。
父に連れられて、大井競馬場にも行った。京浜急行の電車で行って、帰って来る。京急川崎駅の近くの居酒屋へ連れられて行ったこともある。父はそこで濁り酒を飲んでいた。私は何を飲ませてもらったのか、記憶にない。何を食べさせてもらったのか。それも憶えていない。
 母は競輪場で予想新聞を売っていた。まだ赤ん坊だった頃、私は母に背負われて後楽園競輪へ毎日行っていたらしい。しかし、そのときの記憶はない。母は川崎競輪にも、山の上の花月園競輪にも行き、新聞を売っていた。
 
作品名:遠い記憶 作家名:マナーモード