遠い記憶
遠い記憶
幼いころのことを克明に書ける人が、羨ましい。
今日読んだ本の書名を思い出せないことがある。昨日の昼は何を食べたのかが思い出せない。好きな作家の名前、作品名、内容。殆ど思い出せない。祖父の名前、親戚の人の名前は一部だけしか思い出せない。会社の人の名前も、殆ど忘れて思い出せない。旅行をした地名も、思い出すのに苦労する。学校の成績も、威張れる程良くはなかった。美術と国語だけ良かったが、数学、歴史などは嫌いだった。
それでも、幼いころのことを思い出したい。それを、いまからチャレンジしてみたい。
最もふるい記憶が、少しだけ残っているような気がする。
母と父が、両側を歩いている。手を繋いで、両親が幼い私を持ち上げてくれる。宙に浮かんだ私は、嬉しそうに笑い声を挙げる。場所は川崎駅の近くの、商店街の近くの市役所通りの舗道だ。晴天の日曜日の正午くらいだろうか。両親と外食をしたあとか、前だったのだろう。
駅ビルの前にはバス停がたくさんある広場があり、中央に噴水の池があった。その広場とさいか屋デパートとの間に京浜急行の電車の線路があり、踏切があった。線路とデパートに挟まれて、市電通りがあり、ちんちん電車が走っていた。海の方から駅まで来ている大通りには、トロリーバスが走っていた。バスの料金は大人が十円で、子供が五円だった筈だ。