カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~
30、B&Bで
「ただいまあ〜」
「ああ、お帰りなさい」
幸運にも日本からお手伝いに来ているスタッフのOさんが出迎えてくれた。
「姉たち、まだ帰っていないようですね」
「はい、まだですね。別行動だったのですか?」
「ええ、私の娘がトロント大学に英語の勉強に来ているので、私一人で先に帰ってきて娘と会っていたんですよ」
「まあ、そうでしたか。会えてよかったですね」
「はい、でも、一人で帰ってくるのはドキドキでした。疲れました〜^^;」
「お疲れ様。はい、鍵。これで開けては入れますよ」
美月が先に電話を入れてくれていたのか、Oさんが気を利かせてくれたのか、その鍵で無事にお部屋に入ることができた。
お部屋に入って、ベッドにバタンと倒れこんだ。
よっぽど疲れていたのだろう。いつのまにかそのまま眠ってしまっていた。
姉と美月の話し声で気がついた。
「あら、お帰り、帰ってたんや。でも遅かったねえ」
「美也は早かったんやね」
「うん、美優の門限が9時やから送って行ってきてん」
「そうそう、寮の行き帰りにね、いっぱいリスに出会えてんよ」
と今日の出来事を早口に伝えた。
「こっちもレインボーーブリッジの税関のところでたくさん見たよ。チョロチョロ走ってたよ」
コンクリートの橋の袂に森に住むリスがいるとはなんとも奇妙だけど、姉が見たと言うからたくさんいたんだろう。
レインボーブリッジでは、税関で50セント払って出国。ところが出てきたところは元の場所だったと、姉が失敗談を話してくれた。フフ、姉もいろいろやってくれるよ^^
姉の説明ではチンプンカンプンで、どう迷って出口に出てきたのか、私は実際に行っていないから想像できなかった。
だけど、不思議なことがおこったらしい。
多分姉妹だから、思い込みが激しくて、ここが橋を渡る入り口と思い込んで進んで行ったんだろうな。
仕方がないので、また50セント払って今度は正しい入り口から入り、橋の真ん中の国境越えをしてきたよと話してくれた。
姉が一人で?
美月は一緒に行かなかったの?
なぜ行かなかったんだろう?
違うところに行きたかったのかな?
と、そのときは思ったのだが、今考えると、もしかして、美月はパスポートをバンクーバーのマンションに置いてきたままだったのかも知れないと思えてきた。
美月にしたら、今回の旅は国内ばかりを回る旅行だったから、パスポートはいらないと思ったのではないだろうか。
そう考えると、せっかくB&Bにパスポートを取りに帰ったのに、カジノ行きのバスに乗らず、グレイハウンドのバスに変えたし、レインボーブリッジを渡らなかったのも納得できる。
そして、勝気な美月はマンションに置いてきてしまった自分に腹を立てながら、私たちの待つ銀行に戻ってきたのだ。
戻ってきたときに無口だったのはきっとそのせいだろう。
こんな風に考えるとスムーズに納得できる。
今頃気づいた私もなんとも暢気だが。
今度姉に会ったときに聞いてみようっと。
作品名:カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~ 作家名:ねむり姫