カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~
「校舎、見てもいいかな?」
校舎は何棟にも分かれていた。
見るといっても時間はもう午後9時近く。校舎の中には入れないから、外側から見せてもらっただけだが、素敵な校舎がたくさん建っていた。
形も色もさまざまでその一つひとつがとても興味の惹かれる建て方だった。まさに歴史的建造物!1800年代に建てられたものも多いという。
改築の済んだ校舎は現代的なビルになっているが、大半はまだ石造りで重々しい歴史を感じさせる建物だ。しかし、構内がオープンなので、重苦しさは全く感じなかった。
中世のお城を思わせるような石組み、アーケードになった入り口、巧みな彫刻を刻んだ塔。雪深い国ならではの急斜面の屋根。色も色々。いろんな石を使ってあるようだ。
リスに連れられて入ったところは、中庭なのか、小さな森のようになっていた。
その森で1羽の鳥を見つけた。おとぎの国の「幸せの鳥」は…「チルチルミチルの青い鳥」じゃなくて…、真っ赤な羽の珍しい鳥だ。
枝でさえずっていたのだ。
あんなに鮮やかな赤い鳥を見たのは初めてだった。
その中庭を抜けて明るい広場に出てみると、広い芝生では、男子学生がサッカーを楽しんでいた。夜の9時前だが、陽が沈む前なので、十分に遊べる明るさだ。
サッカーの部活動をしていると言うのではなく、仲間どうしでサッカーに興じてると言う雰囲気で、楽しそうだった。
その広場の向こうには丸いドーム型の屋根をした建物、コンボケイションホールが見える。
緑色の丸い屋根なのでとても目立つ。
ここでは卒業式なども行われるようだが、1000人規模の講義もあるようで、めちゃめちゃ広いホールだ。
そして、そのホールの横からは、はるか向こうのユニオン駅近くにあるトロントのシンボルCNタワーまで見えた。
再び歩道に出て歩いた。
「あそこが大学自慢の図書館よ」
と示されたところは、とても現代的な建て方のビルで、図書館とは思えない大きな建物だった。
中には1700万冊以上の蔵書があるらしい!
すごい!!
図書館の石段からは数人の若者が本を抱えて出てきていた。夜9時だと言うのに勉強家だなあ。
しかし、図書館前の広々とした芝生には屋台のアイスクリームやさんが出ていた。それが何か不釣合いで可笑しかった。
アイスクリームを買っている学生もいた。
ほんとにまっすぐ歩いていると、程なく、
「ここが寮だよ」
と教えてくれた。
「え、もう着いたん?」
見ると、それはオレンジ色の洒落た新しい4階建ての建物でマンションに見えた。
入り口もアーチのようになっていて、ロビーも広そうだ。
寮の近くにゴミ箱が置いてあって、それを見ながら 美優は、
「あのゴミ箱の中からリスが何回も出てくるのを見たよ」
「え〜!?ゴミ箱の中のものを食べるの!?カラスみたいやん」
ゴミ箱とリス、なんだかイメージが違ったけど、これもところ変わればなんだろうか…。
「あそこが私の部屋。3階だよ。二人部屋やねん。お部屋の子は同じ大学の1年生」
ちょうど道路に面した角のお部屋だった。
同室の子とは、年は離れているけれど、気は合うようだ。たった1ヶ月とはいえ、気が合わないルームメイトはお互いつらいものね。
寮を見上げると、ちょうど角部屋が出窓のようになっていて、ランプシェードが見えていた。
「あそこがリビングやねん」
「そう、綺麗な寮でよかったね。じゃ、がんばって英語の勉強してね。お母さんは、明日の午後の飛行機でバンクーバーに帰るから。日本に着いたらメールするね」
「うん、明日はどこ行くん?」
「あんまり時間がないから、多分CNタワーだけになると思うよ」
「ああ、あそこね。夜に行ったわ。夜景がとっても綺麗だったよ」
「そう、お母さんたちは昼間やから、景色はどうかなあ?楽しみにしておくわ」
「じゃ、バイバイ。お母さん気をつけてね」
「バイバイ」
作品名:カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~ 作家名:ねむり姫