カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~
ベンチに座ってしばらく考えた。
これじゃ、方角が全くわからない…。ガイドブックはデイバックの中だし…。
なんで今日のように一人で行動しないといけないときに限って、電子辞書もガイドブックもないのん!!すべて、カジノが悪いんだ!!シクシク。
カジノ行きのバスを恨んだが、そうもばかり言っておれない。
最近の自分の方向音痴振りを振り返ると、絶対違う方向に行ってしまう。直感が全く冴えなくなっていて、間違いばかりしている最近の自分。思い込みが強くなった自分。
違った方向に行ってしまったら…、そうなったら戻れないよ。
ここは慎重に考えて 売店で一番安い地図を買った。
全部英語だった。…当たり前だけど。
さて、外に出て、大きなビルの名前を確認し、通りの名前を確認し、地図で確かめて行く方向を決めて歩き始めた。
ラッキーなことに、トロントの街は、通りが京都のように碁盤の目のようになっていて、とてもわかりやすい街だった。
とりあえず、トロント大学の南、カレッジストリートまで行ければ、後は何とかなる。
地図と通りのビルの名前を見ながら何度も立ち止まり、
「よし、大丈夫。ここをまっすぐだ!!」
など一人ぶつぶつ言いながら間違えないように歩いていった。側で見てるときっとへんな行動だっただろうな。
でも、そんなこと構っちゃおれない。
後で、美優に会ったときに、
「お母さん、地図を見ながら歩いてたら、危ないよ!!早くしまって!!」
と言われた。そういえばそうだね。
何も知らない人と思ったら騙されたかも知れないね。でも、誰もこんなおばさんを相手にしなかったからよかったよ。
いやいや、騙すにも英語が通じないんだから、大丈夫か…。
トロントの街が都会でよかった。これが、建物や通りの名前が表示されていないような田舎で一人ほうり出されたらどうしようもなかっただろうな。
ズンズン歩いていくとやがて、見覚えのある通りに出た。ストリートカーと呼ばれる路面電車の走る通りに出た。
地下鉄のクイーンズ・パーク駅もすぐ近くに見えた!
もうここまでくれば大丈夫。
後はまっすぐ西に歩くだけだ!ホッとした。
時間は午後6時になろうとしていた。
メールでは知らせていたけど、美優が心配してるだろうな。
トロント大学の建物も見え始めた。
交差点の信号のところで、懐かしい顔が待っていてくれた。(といっても、美優がトロントに来てまだ11日目だったけれど。)
走って行った。
「ああ、よかった。やっと着いたわ。もうドキドキやってん!!」
「あれ?おばちゃんと美月姉ちゃんは?」
「それが、もうちょっとナイアガラにいるって言うから、お母さん一人で帰ってきてん。偉いやろ?」
「すごいなあ。お母さん!よう帰れたねえ」
ホテルの近くまで帰ってきたのと、娘に出会った安心感で、普段無口の私も雄弁になった。
「さてと、ホテルに行く?ホテルと言ってもB&B言うて民宿みたいなところやけど」
「あ〜、それで、どこにあるかわからへんかったのね。看板も出てないもんね」
「あ、お部屋の鍵がないから入られへんかったわ。どっか食べに行こうか。お母さん、お昼はジェラートだけやったからおなかぺこぺこ!」
こうして、冒険の一人旅は無事に終わった\(^0^)/
作品名:カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~ 作家名:ねむり姫