カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~
時間はもうすぐ2時。
そろそろ帰らないとまた美優に会えなくなる…。
滝ももっと見たいけど、昨夜会えなかった分、今夜は絶対会わなくっちゃ…。
『物価が高くって生活費が足りなくなりそうって言ってたし…。
普段家では、台所に立つことなんかほとんどない娘だが、ここでは自炊をしなくてはいけない。何を作ってるんだか…それも心配。
留学生みんなでミュージカルを見に行くとも言ってたなあ。
カナダではミュージカルはきちんとした服とバックが必要なんだって。
『服は何とかなるけど、バックはカジュアルバック一つしか持てきてないから、買わなくっちゃ…と言ってたなあ』
などと思い出して来て、心はいっぺんにナイアガラから離れ、トロントの娘のことでいっぱいになってしまった。
「……私やっぱり帰りたい」
「え〜、まだ見たいよ。タワーにも登ってみたいし、美優ちゃんなら家に帰ったらいつでも会えるやん。そんなに美優ちゃんに会いたいん!?」
と姉は茶化す。
ずいぶん迷ったが、
「じゃ、一人で帰るわ。さっきの反対に帰れば帰れるやろ」
「それやったら、美也さん、急がないと…。シャトルバスは2時半に出るらしいよ」
テーブルロックのあるセンターから、さっきのバス停まではずいぶん距離がある。
「じゃ、行くわ!何とかなるやろ。」
と口では偉そうにいったが、内心バクバクだった。
ホンマに帰れるんやろか…。わからへんようになったらどない言うてええんやろ。
心細うて心細うて、ホントは泣き出しそうだったのだが、二人の手前、大見栄を切った。
美月はもっと滝が見たかったのか、母親と居たかったのか残ることになった。
私は走った走った、確かあの花時計のあたりだったよな。うろ覚えの場所を目指して走った。汗が吹き出てきた。それでも走った。
通りの角を曲がると、見覚えのあるシャトルバスが見えた。ホッとした。
これで、ナイアガラももう終わり…、短い時間だったな。
山の中にあると思っていた滝が、明るい平地でしかもホテルやカジノや商業施設もたくさんある場所にあったのには驚いた。
カナディアンロッキーの大自然とは対照的で、その大自然に大満足していたのに比べたら、あまりにも観光地化されている点でちょっと減点のナイアガラの滝だった。
しかし逆に、観光客を楽しませてあげよう、豪快な滝の醍醐味を味わってもらおうとするアトラクションや展望タワーなど、サービスはよく考えられていると思った。
そんなことを振り返りながら、ナイアガラの滝とも別れることになった。
作品名:カナダの自然に魅せられて ~トロントへ~ 作家名:ねむり姫