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金木犀

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朝になって、仕事場のドアを開けると、金木犀の匂いでいっぱいだった。スチールデスクの上に置いてあったのだが、半分ぐらいの花が落ちている。それはジュウタンのようにはならず、灰色のデスクの色の上で少し寂しそうでもあった。

私はそれを掃除しようか迷ったが、そのままにしておいた。仕事をしている間ずうっと金木犀の匂いがある筈だが、仕事に集中していたせいか忘れている時間がある。

そんな風にして、次の朝仕事部屋に入ると、金木犀の匂いは衰えていない。しかし、殆ど木から落ちてしまっている。Kさんの庭でみた黄金のジュウタン、そして目の前の小さなジュウタンとを比べてみると、やはり美しいとは言えなかった。私は花びんから枝を取り去って、ゴミ箱の中に入れた。そして、デスクの上と床に落ちた花達を掃除機で吸い取った。

まだ部屋には匂いが残っている。KさんとはFAXと電話でやりとりをして、順調に終えようとしていた。気のせいだろうか、Kさんの声が弱々しく感じられた。


春にKさんからの仕事をしたのは、本からスキャンしOCR(文字データ)化するだけだった。そして夏から季刊PR誌をやるようになった。思い出せば夏号の時Kさんは今よりも太っていて、逞しささえ感じたほどだった。対談のテープ起こしが大変で、「今日も徹夜だわ」と言って笑っていても疲れは感じさせなかった。

Kさんはプライベートのことはあまり話さなかった。唯一個人的なことといえば、一緒に編集プロダクションを創ったというFという男。それも単に仕事上の仲間かも知れないが、あの時の「酒さえ飲まなければね」と言った時の愛憎を感じる言い方で、二人は恋愛関係にあったという印象を持っている。

あの時、流れていた曲が何故かふっと頭に浮かんだ。ダニーボーイだった。中学生の頃、英語の先生が英文と日本語の歌詞を教えてくれたことも思い出した。

♪ あなたのいないこの町は 
 幸せの消えた町 
 思いでの夢ははかなく 
 過ぎた日の夢に泣く 
 枯葉の散る音さえも 
 胸にせつない 秋の夜

作品名:金木犀 作家名:伊達梁川