小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

金木犀

INDEX|8ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

マジェンダ色の空を見ながら自転車を走らす。Kさんのことを思って胸の中がどこか温かくそして同時に少し寂しい。自転車のカゴに入れてある金木犀からはずうっと匂いが放たれている。

家につくと、妻が掃除機をかけている音が聞こえた。私が側に行ってやっと妻は気づいた。掃除機のスイッチを止めた。一瞬の静寂。そして、私の抱えている金木犀を怪訝そうに見た。

「Kさんがくれたんだ。大きめの花びん無い?」と私が言うと、妻は何かいいかけて止めた。その表情は金木犀を歓迎してはいない。それでも、流しの下の扉をあけて花びんを出してきて、私に差し出した。自分で花びんに活ける気はなさそうだった。

「どこに置くの、それ」という妻の声を聞きながら花びんに水をいれ、金木犀を無造作に差しこんだ。

「どこがいいかな」と私が言うと、妻は「仕事場にすれば」と言って掃除を再開した。

妻は私の心の中にある何かを感じたのだろうか。それとも、仕事上の付き合いとはいえ妻帯者が女性に花を貰ってきてはいけなかったのだろうかと思いながら仕事場に向かった。

仕事をしながら、ふっと、チョコレートのことを思い出した。デザイナーの紹介でKさんが最初に仕事を頼みにきた時に、「食べなかったら奥さんにでも」と言って名の知れたチョコレートをくれたのだった。その時、妻は満面の笑みでチョコレートを受け取ったのにと、あまりに違う妻の表情に戸惑ってしまった。

夕食の時間、少しの会話と、テレビの番組を見てばか笑いで過ぎた。別に妻が怒っている様子もない。私は少し考え過ぎだったのかとも思った。だいたいが花よりだんごの妻なのだから。

作品名:金木犀 作家名:伊達梁川