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金木犀

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どこまでKさんのプライバシーに立ち入っていいか分からず、私はKさんのいうオトコは表札にある男の名前なんだろうなという推測だけに留めた。そして一箇所だけある窓を眺めていると、Kさんが立ち上がって窓を開けた。途端に金木犀の匂いが部屋の中に入ってきた。

「ほら、ここから金木犀見えるよ」Kさんが言った。

私も立ち上がって窓から外を見た。狭いので必然的にKさんと触れ合う形になった。細身に見えてふわっと弾力があり、私は身体の中にコツンとしたものを感じた。

昨日見た金木犀だ。やはり橙色というかそれは黄金色のジュウタンに見えた。完全に触れ合っているがKさんから身体をどかそうとする気配は無い。私はKさんの顔を見ようとした時、Kさんも向き直った。

「持って帰る?」とKさんは言った。私は持って帰りたいが妻がいると一瞬思ったが、持って帰るのは金木犀だということをすぐに解って、少し残念そうに「うん」と言った。


外に出ると、Kさんは剪定用のハサミを持って金木犀の所に行って、数本枝を切った。花がこぼれ落ちる。匂いも一緒に飛んでいる。横からの西陽を受けて黄金色のジュウタンの上にKさんの影が横たわり、動いている。

Kさんは「新聞紙でくるもうか、じゃあ自転車のところで待っていて」と言って私に切り取った枝を手渡して、家の中に入って行った。

玄関のドアが開いて新聞紙を持ったKさんが出てきた、ガサガサと音をたてて金木犀を包む。それを自転車のカゴに入れた。

「じゃあ、解らないところがあったら電話します」と言って私はKさんの家を後にした。やはり大通りに出る時に振り返って見た。Kさんが家に入る姿が見えた。どこか寂しげに。

作品名:金木犀 作家名:伊達梁川