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金木犀

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「裏の庭見たことが無いでしょう」と言ってKさんは歩き出した。細い通路の脇に萩、そして雑草。歩きながらKさんは目立つ雑草を引き抜いて捨てた。草の匂いと土の匂いが、子供時代を思いおこさせた。

「Kさんの田舎はどこなんですか」と私は後ろ姿に声をかける。Kさんは一瞬立ち止まり、また歩きながら「ん? もう無いのよ」と短く言った。その何か事情を含んだ声音に私はそれ以上何もたずねなかった。

金木犀の匂いが強くなった。先程の酔ったような感覚はなくなっていた。

「ほら、すごいでしょう」Kさんが金木犀の木の側で振り返った。

緑の葉と橙色の花の組み合わせも綺麗だったが、私は地面にこぼれ落ちた花のジュウタンのほうが美しいと思った。たとえばアジサイは花が枯れた後も木に残っている。しかし桜の花もそうだが、落ちてなお美しい花がある。

私の視線をたどったのか、Kさんが含み笑いのような声で「やっぱり、感覚が合っているかもしれない」と言った。私はKさんを見て、その視線が私から地面の金木犀に移るのを見ながら、やはり地面の金木犀に目を移した。

「あ、ちょっと待ってて」とKさんは家の中に入って行った。そして少しの物音。私は木にある金木犀と土の上の金木犀と視線を変えて見ていた。

「Sさん、ちょっと手伝って」という声と一緒に珈琲の匂いがした。

「そこにある折りたたみ椅子を持ってきて」と軒先の方を指した。私は2つの椅子を持ってSさんの側に行った。

「はい、熱いから気をつけて」とコーヒーの乗ったトレーを差し出した。

作品名:金木犀 作家名:伊達梁川